エクリプス
その猫の最期をリークスは知らない。
天を突く炎の中、悲壮な顔でただただ己の名を呼び続けた猫の最期を、リークスは知らない。
ただ、無念の中で命を落としたとだけ、と風の便りで聞いた。
リークスはただ猫たちを恨みリビカたる己を恨み世界を、心を憎み続けて。その最たる存在であった一人の猫が死んだと知った時、リークスは知るものかと薄い唇を歪な形にゆがませた。
久し振りに接触した、外界の猫。気まぐれを起こして助けた猫。リークスに、久し振りに唄を聞かせた猫。
猫は多くの唄をリークスに残していった。
森を歩く唄、掃除の唄、友達を作る歌…その猫らしい、酷く気の抜けた唄ばかり。リークスの知る唄とは何もかもが違う、おかしな唄。
奇妙な猫だと、厭きれたように云えば、猫はふわりと、君こそ奇妙な猫だと笑った。
陽の月の、ほかりと尾を暖める明りに似ている猫であった。そして、思わずつられるような笑みを浮かべた猫でもあった。
らしくもなく、リークスはその猫を懐にいれようとしていたのだ。
永い時を一人で過ごしてきた己が、他の猫の存在を許容しようと、していた。
だから、リークスは己の心が憎くてたまらない。
温かいなどと、ましてや、受け入れようなどと。
おぞましい想いを抱いてしまった己を、リークスは憎んで憎んで。

だから、その猫が…シュイが死んだと聞いた時。リークスは心から安堵したのだ。

これで、世界を、己を壊せると。


自身の行動の意味など、知りもせずに。






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