わん、わん、と。
小さな子供が泣いている。
寄る辺もなく、抱き寄せる腕も無く。
降り続ける雨に打たれながら、小さな子供がわんわんと。
黒い、余所行きの洋服に身を包み、わんわんと泣き続ける子供を浦原は見詰めていた。
口を結び、目を見開き。傘を差すこともせずに、じっと写真の中で微笑む女を睨みつけている子供。
あれ、と首を傾げる。
子供は唇が切れてしまいそうなほどに力強く口を閉ざしているというのに。
どうしてか、わん、わん、と泣き声が聞こえてくる。
その横にいる、子供よりも更に小さな少女たちはわけもわからずにああ、ああ、と重苦しい雰囲気に押しつぶされそうだと泣いているのだが、浦原の耳には、その声よりもさらに大きくわん、わん、と世界の終わりだとばかりに泣き続ける声が聞こえている。
遮るものも無く、止める温かな腕も無いその声は、鋭く強く、浦原の耳に届いた。
オレンジ色の髪した、小さな子供。
死んだ母の遺影を、瞬きなく睨み続けている子供の姿に、浦原はなんだと思った。
「貴方の子供、馬鹿なんだ」
花に包まれ、満面の笑みを零さんばかりに浮かべている写真の相手に、浦原は誰にも知られること無く、うっそりひっそりと笑った。
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