裸エプロン
「お邪魔しまーす」


勢いよくドアを開け放っていつものようにソファの上で横になる。
城之内が最近この部屋にくるようになってから見かける光景だ。

「一体、何の用だ」

「今日家ん中掃除してたらさー・・・」

こちらの言うことなど歯牙にもかけず、全く脈絡のない話を始めるのも日常茶飯事だ。しかし、城之内には城之内なりの考えがあるらしく、最後にはこちらの問いの答えに辿り着くように話すのだ。中々面白い思考だ、と最初に言ったらお前の方が面白い思考だ、と言い返されてしまった。

「静香とまだ一緒に暮らしてた頃のものとか出てきてさ、」

過去に飛んでいた思考を現実へと引き戻す。
やつは、時たまなんでもないように過去のことを話す。
最近は特に話すことが増えた気がする。

「静香がちっさい頃に描いた絵とか出てきてさ、それが俺が家事やってる絵ばっかでなー」

遠い目をして、淡々と笑いながら話す。

「そん中でさ、俺が料理作ってる絵とかあってさ〜、俺、それ見て笑っちゃたよ」

そう言って、ごそごそと薄い学生鞄の中を探り始めた城之内に自然と笑みが零れる。
まるで小学生が親に自分の描いた絵を見せるような姿だな。
あった、と嬉しそうに髪を取り出した城之内は前回の笑顔で。

「これこれ!俺、裸にエプロン着けてるみたいだろ?!思わずつっこんだね、俺は。」

裸エプロンだよなーとニコニコと話し掛けてくる城之内が持っている絵はまだ小学生にもならないやつの妹が描いたのだろう、人間とわかる程度の絵。肌色のクレヨンと、赤いクレヨンと、黒いクレヨンの3色のみしか使われていない。しかし、城之内に言われなければわからない絵だが、裸にエプロンと言われればそうと見えなくもない。呆れて何も言えないでいると、城之内は上機嫌でこちらに寄ってきて、机の上に座った。

「行儀が悪い」

「細かいこと言うなよー海馬ー。」

馬鹿面全開の顔で俺の顔を覗き込んできたので頭を叩いてやった。口を尖らせてキャンキャンと文句を言ってくる城之内をまるで小型犬だなと言ってやるとまたさらに噛み付かれてしまった。
可愛いという意味だったのだが。

「用件はそれだけか?」

「まあ、これが主な用だったけどさ。」

「では帰れ。」

「つめたーい!海馬君つめたーい!」

「俺は仕事中だ。邪魔をするな。話がしたいのならいつものお友達の所にでもいけばよかろう。」

「うー、こーゆーくだんない話だけしにいくのって皆に悪いだろー」

俺はいいのか、と思わず怒鳴りそうになったが、こんな下らない話に付き合ってる暇はない、とぐっと堪えた。すると、城之内はうへ、という奇妙な声を発して笑い始めた。とうとうおかしくなったか、と危惧して顔を上げると口付けの嵐。額に鼻に頬に目元に口元に。

「・・・・・・・一体なんだ。」

「くだらない話だけどさ、海馬に聞いて欲しかったんだよ。俺の話、全部聞いて欲しいんだ。俺、この絵発見して嬉しかったんだ。すげえ、嬉しかったんだよ。」

だから、お前に話したかったんだ、と言って、抱きついてくる城之内を机から降ろして、膝の上に座らせた。抵抗せずに、されるがままの城之内は、恥かしそうに微笑んで、もう一度、今度は力強く抱きついてきた。








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