「馬鹿と煙はなんとやら。」
「突然何を言い出すかと思えば・・・」
海馬コーポレーション本社の最上階。
俺と同い年の男が社長を務めるこの会社の社長室を訪れたのは今日が3度目。
前に来た理由は働きすぎる男を強制送還するためにモクバに派遣された、といものだ。
今日は、ただ海馬の仕事場をじっくり見てみたくなったから。
大きなディスクの後ろには、大きな窓が。
そこからこの街の全貌が見渡せる。
まるで自分が支配者になったかのような錯覚をみせる、と海馬に言えば前社長の趣味だ、と苦々しく言う。
「でも、お前、高い所似合うよな。」
「・・・それは暗に俺が馬鹿だとでも言いたいのか?」
不機嫌な男の顔を、きっと自分は間抜けな顔で見ているだろう。
なぜ、そんな風に思ったのか、暫く自分の中で考えて、先程自分が言った言葉を思い出す。
「いや、そういう意味じゃねえよ。ただ、お前は人の上とかにいる方が似合うなってこと。」
「・・・・・・・・・・」
複雑な顔をしている海馬に微笑んで、また窓の外の風景に目をやる。
オレンジ色に染まる空と街は普段とは違った場所で見るせいか、どこか知らない街に見える。
窓硝子に額をつけて、下を見下ろす。
これが、海馬の視点か、とぼんやり思う。
視界全部がオレンジ色に染まって、今自分がどこにいるのかがわからなくなる。
窓に置いていた手に、海馬の手が重なった。
背中に暖かな温もりと、耳元に人の体温が、重なる。
海馬に閉じこめられたな、と思うと楽しくて仕方がない。
「楽しそうだな、城之内。」
「…ああ、うん。」
耳元で聞こえる海馬の声に、身体から力が抜けそうになる。
いい声、と呟くと、いい触り心地だ、と返された。
柔らかく笑って、優しく喋って、暖かい雰囲気。
この高い場所は、俺のお気に入りの一つだ。
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