待ち時間
待つのは城之内。
待たせるのは海馬。
気がついたらそんな図式が成り立っていた。
城之内もバイトや家事やらで他の学生達に比べたら多忙な生活を送っているが、17歳という若さで社長業を務めている海馬には及ばない。
城之内のイメージとしては海馬コーポレーションほどの大きな会社の社長であったら重役出勤仕事は優秀な部下任せで社長本人はそんなに忙しくないだろうというイメージであったのだが。この海馬瀬人という男は違った。
取引などはもちろんのこと、普通ならお前研究者とか専門分野の人がやるような研究にまで自分で手を加える始末。
働く意欲がある立派な若社長とも言えなくないが、ただ自分以外の他の人間を信用できないのだとも言える。どちらかと言うと後者だろうな、と城之内は海馬との待ち合わせ場所で思う。




マインドクラッシュ後、海馬は随分と変わった。
モクバに対しては以前の態度が嘘のような変わりようだし、他の人間への態度に関しても柔らかくなった。
海馬の独走状態だった会社経営も多少は変化してきているようだ。
ゆっくりとたが、海馬も、海馬の会社も良い方向へ変わってきていると思う。
しかし、海馬の仕事癖というのか、なんでも自分でやろうとしてしまう事はかわらないらしく。
あの男はいつでも多忙を極めている。
力の抜き方を知らない、馬鹿真面目な男。
仕事方面に関してはアクティブなくせに、こと遊び方面になると出不精になる海馬をこうして城之内が時々外へと連れ出すのだ。


約束は前からしていたもので、内容は映画鑑賞。
まるでデートのようだ、と海馬が笑う。
デート以外の何がある、と城之内が言うと海馬は笑うのを止めた。
照れている海馬を見て、可愛いと城之内は思った。
感情を、上手く出せないこの男を可愛いと思う。
口に出せば何されるかわからないから言ったことはないが。
こうやって、気がつくと海馬の事ばかりを考えている自分は相当あの男に溺れているのだろう。
寒空の中、海馬を待っている時間を幸せと思う自分も馬鹿だなと思う。
約束の時間まであともう少し。
恐らく遅れてくるだろう男が、どんな言い訳をするのか考えるだけで楽しくて仕方がない。





城之内は悴む手を摺り合わせて、嬉しそうに微笑んだ。









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