キス
城之内は人前で触ろうとすると面白いくらいに嫌がる。
逆に、人がいなくなると触れていない時がないくらいにくっついてくる。
たとえば、社長室で二人きりになったときや、自室で二人になったとき。
学校でも二人きりになると、城之内の雰囲気はがらりと変わる。
よく喋り、よく笑うところは同じだが、どこか甘い表情をするのだ。
俺の膝に座って喋り続けることもある。
後ろから抱きしめて笑うこともある。
手を繋いで、楽しそうにしながら、キスを仕掛けてくることもある。
俺から仕掛けるキスは、立てなくなるから加減してくれと、抗議する。
城之内からしかけるキスが大体が軽く触れるもので、それ以上の行為を望んでしているものではない。
キスをする、という行為は性行為に繋がるものだとしか認識していなかった自分にとって、城之内のキスはどこか不思議な感がある。
だた、触れるだけ。
そして、城之内はこれ以上ないくらい甘い表情の笑みで何度もキスをしかけてくるのだ。
それ以上に進めようとはしない。
逆に進めたくないかのように、深くなる前に唇を離す。
キスをして、笑って、またキスをして、甘く名前を囁きあって。
幸福な時だと、思う。
城之内だけが、こんな風に自分の中のものを、引き出してくれる。
自分が持つことはないだろうと、持つ必要もないと思っていたものをゆっくりと引き出すのだ。
そして、自分に無性に与えてくれるのだ。

この、暖かさを。









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