仲直り
会う約束をした。
仕事の合間に、ほんの数時間。
そうしたら、いつものごとく仕事でつぶれた。
城之内は怒っているだろうか、と思って電話をしたらいつもと変わらぬ声で

「仕方がない」

と溜息をついた。
すまない、この埋め合わせは必ず
と、いつものように電話を切る。
そんな風に、城之内との約束をいくつ破ってきただろう。
その度に海馬は罪悪感を感じ、城之内に謝罪をした。
すると、城之内は、お前らしくない、と言って

「また今度な」

と電話を切る。
いつのまにか約束を違えるようになったのが当たり前に感じて
悪かったな、の一言に以前のように罪悪感が伴うこともなくなり
約束が珍しく守られた時に見た城之内の表情の意味を読み取ることもせずに
ただ時間だけが過ぎていき、ある日突然それが起こった。



会社の社長室に、モクバから電話があった。

「兄さま助けて」

弟の切羽詰った声を聞き、何事だと思い急ぎ屋敷に戻ったら。

「ああ、海馬、お帰りなさい」

と口元だけで笑みを浮かべた城之内が玄関先で出迎えてくれた。
何故か割烹着を着てお玉を片手に仁王立ちで。
遠くのほうで怯えているモクバを発見し、これが原因かと理解した。

「・・・・・・・・どうした」

「別にお前が俺との最初のデートの約束をすっぽかしたとかそれの埋め合わせさえもすっぽかされとか
お前の誕生日の時にモクバと一緒にご飯食べようなっていう約束をすっぽかしたとかクリスマスの時に
お前が俺を邪魔扱いしたとか正月の挨拶にきた俺に向かって暇人だなとかいったりとか俺の誕生日の
時にプレゼントだけ届けさせてお前はその日結局俺に会わなかったとかを怒っているわけじゃあないんだ」

正直言って、忘れてしまっていることもあった。
約束を破り続ける自分に城之内は寛大にも許してくれている、と一瞬前まで考えていた自分を愚かだと思った。
こいつは許していたのではない。
溜めていたのだ。
思わず顔が引きつるのを感じながらも暴力沙汰には発展させないようにしなければと思い
なんとか許してもらおうと言い訳や暇な日を頭の中で考えていると城之内はにっこりと、笑って

「お前、最近仕事仕事で疲れてるだろう?だからお前のために料理を作ったんだ」

「あ、ああ、」

「全部食ってくれな」

と口だけの笑みを浮かべたままの城之内は大きな鍋一杯に入ったおでんを出した。







「これで・・・・いいか・・・」

それから、出されたおでんを時間をかけながらゆっくりとだが、海馬は食した。

「・・・・・別に完食しなくても、謝ってくれれば許してやったのに・・・」

最初の方は怒りでとにかく海馬を懲らしめてやろうと思っていたのに、
無言でおでんを食べ続ける海馬を見ていたら段々可愛そうに思えてきて。

「・・・・これが、お前の、今まで溜めてきた怒り、なのだろう・・・俺のせいなのだから、

俺が全部食べるべきだろう・・・・すまなかったな・・・」
あの、いつもいつ呼吸しているのかわからないくらいに喋る男が、
息も絶え絶えに謝る姿をみたら、誰がそれ以上怒り続けられるだろう。
怒りはすでにない。
代わりに、やりすぎたかも、という後悔で城之内は一杯だった。
海馬のおでん嫌いは凄いものがある。
見るだけで嫌悪感を顔にあらわし匂いだけでも吐き気がすると言っていた。
そんな海馬が大きな鍋一杯のおでんを完食したのだ。
海馬は本当に自分に対してすまないと思っていたのだろう。

「・・・・・・もう、怒ってない。ごめんな・・・」

「いや、全面的にこちらが悪い。貴様に、悲しい思いをさせたのだから」

「・・・・くっさいよ、お前・・・・」

自分の頬が熱くなるのを感じながら、城之内は仲直りの意味を込めてキスをした。









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