海馬の背中には、無数の傷がある。

他の場所には傷らしいものは一つもなく、綺麗な身体なのに。
理由は聞いたことがない。
これから聞くこともないだろう。
自分の身体にも背中に限らず無数の傷がある。
幼少時に父親から受けた傷。
中学の頃喧嘩でつけた傷。
綺麗な場所なんてひとつもないのに、この男は綺麗なものを愛でるように口づける。
顔に、首に、腕に、胸に、足に、背中にも口付けを落とす。
なぜ、こんなことをするのか、と聞けばしたいからだ、と答える。
だけど、本当はその理由を俺はわかっている。
だから、俺も海馬の身体に口付けをする。
特に背中にキスをするのが好きだ。
無数の、細長い傷。
傷が治る前にまた新たな傷が作られたせいか、肌の色がほんのりと赤い。
陶器のように白い肌を持つ男の身体で色を持つ部分。
そして、少しだけ皮が厚い。
傷の凹凸を唇で確かめて、辿っていく。
海馬はそんな俺の行動を嫌がる。
止めろ、と何度も止められるが、決して止めてやらない。
お前も、この衝動を知っているだろうから。
二人で、傷に口付けてそして最後に唇に。
これは儀式のようなもの。
お互いの、心に踏み入る為の儀式。



海馬は、前戯を大切にする。
多分、俺を恐がらせないように、逃さないようにゆっくりと海馬に食い止めるため。
俺に、傷を負わせたくないために。










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