初めての夜
泊まると言い出したのは城之内だ。
いつも夜遅くまで海馬の部屋で過ごしていく城之内は海馬がどんなに行ってもこの家に泊まったことはない。
警戒しているのかと、聞けばそうではない、と城之内は柔らかい笑みを浮かべて答える。
ではなぜだ、と聞くと、秘密だ、悪戯な笑みを浮かべて囁く。付き合っているわけではない。
ただ、自分が城之内に、自分は恐らく貴様が好きなのだろう、と言っただけだ。
城之内からの返事は、聞いてはいない。
何も言わず、何も聞かずに自分の傍にいるのだ。
それだけでも天にも舞い上がる気持ちでいる自分に苦笑する。
傍にいるだけで、それだけで全てのことが変わって見えた。
しかし、それでかではすまないのが男の悲しい性だ。
城之内も男だ。恐らくそういうことになることを危惧して泊まらないのだろうと思う。
無理にする気はない。ないが、如何せん我慢が聞かなくなるときもある。
そろそろ限界か、と思った矢先に城之内が家に泊まるといいだした。
期待してもいいのか、それともただたんにバイト疲れで自分の家まで帰るのが億劫なだけなのか、
この自分が、わからなくなっているのだ。
恋は盲目とはよく言ったものだ。

「・・・・・・・それは期待してもいいのか?」

こんなことを聞くのは自分らしくない。
相手がどう思っていようが、手に入れるのが自分だったはずだ。だが。

「うーん、その場面になったら怖気づくかもしんねえけど、今はそーゆーことになってもいーかなって思ってるぞ」

そう言って、自分の首に手を回して抱きついてくる男にだけは、強く出ることはできないのだ。
本当は、きつく、きつく抱きしめて思う様貪り尽くしたい。
しかし、実際には、抱きついてくる城之内を、優しく壊れ物を扱うように抱きしめ返す自分しかいないのだ。
城之内の柔らかい髪に顔を埋め、少し抱きしめる力を強める。
それに気をよくしたのか、城之内は顔を少し離して額にキスをした。
自然に笑みが零れてくる自分に、城之内は満足そうに笑った。










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