生きたにおい
「海馬、駄目だ。」

首元に顔を埋め、口づけてくる海馬の肩を押しやる。
軽く押しやっただけなので、海馬はこれも駆け引きの一つだと思ったのか、無視して口づけを再開した。
確かに、本気で城之内は嫌がってはいない。
自分の二の腕を掴み、噛み付くように肌に吸い付く海馬を、愛しいと思っている。
「駄目だ、」
もう一度、拒否の言葉を発するが、海馬は無視した。城之内自身も、止めて欲しいとは思っていない。
学生服の上着は既に脱がされて、シャツの釦もほとんど外されている。肩に辛うじて掛っている程度だ。
ゆっくりと、海馬の手が肌の上を這う。
優しいくせに、何してもエロいんだよな・・とぼんやりと城之内は思う。
シャツが脱がされ、床の上に落ちる。鎖骨に歯をたて、海馬は漸く顔を上げた。
整った白い顔に、欲で揺らめく青い目。その瞳に引き込まれて、自分の欲にも火がつく。ゆっくりと、顔を傾けて海馬の形の良い唇に、自分の唇を押し当てた。離れて、もう一度、海馬の顔を見ようとしたが、すぐに海馬が覆い被さってきた。
触れ合うだけ、なんて優しいものじゃなく、お互いの唾液が混ざり合って口から溢れる程に。
舌を入れられ、歯の裏まで舐められ、こちらの舌を捉える。閉じていた目を開けると、海馬の顔が滲んで見えた。最近涙腺が弱くなっているのはコイツとのキスのせいだと思う。俺の身体から何もかも溢れさせて、全て海馬で埋まるようにするのだ。
目を閉じて、俺の口内をまさぐる海馬っていう珍しい図を見れるのはまさぐられている俺だけ。意識が飛びそうになるのをなんとか耐えて、海馬に縋る。それに気をよくしたのか、海馬は口を離し、俺を子供のように抱き上げた。片方の腕で尻を持ち上げてもう片方を膝の裏に入れて持ち上げるという抱き方。海馬を見下ろすという珍しい目線になんだか嬉しくなって海馬の頭を抱き込んだ。
寝室に運ばれて、キングサイズのベッドに落とされた。
「もう少し丁寧に運んでくださーい。」
くすくすと、城之内は笑いながら海馬を見上げる。
「仰せのままに、姫。」
城之内を手を取り、指先に口づけをする。
すると城之内は真っ赤になりながら急いで手を引っ込めた。
そういう恥ずかしいことをするな、とブツブツ呟いている城之内に覆い被さりお望みの通りにしたのだが?
と囁けばさらに顔を赤くして顔を背けてしまった。
こうまで愛しいと思える相手がいるとは思いもしなかった。
城之内がどんな我儘を言おうが、海馬には嬉しさしかなかった。
自分の腕の中をするりと抜け出し、すぐに駆けだしてしまう恋人に海馬は夢中だった。
首筋に先程自分がつけた赤い印を見つけ、海馬は満足げに微笑む。
鎖骨の中心から、喉仏の辺りまで舌で舐めると、びくりと震える。
既に上半身は裸で、海馬は存分になめらかな肌の感触を楽しんだ。
脇腹を掠め、臍の下をなぞり、胸の飾りを摘む。
その度にびくりびくりと過剰に反応する身体を海馬は好ましく思う。
もっとも、城之内自身は自分のその反応を恥ずかしがっているが。
ベルトを外し、腰を浮かせて下着ごと脱がせようとしたら、肩を押され、止められた。
思わず顔を顰めると城之内は俺だけ脱ぐのは嫌だと言い出した。
そういえば自分はネクタイすら外していなかったな、と思い出し身体を起こしネクタイを緩めた。
すると城之内が手を伸ばしてシャツを脱がし始めた。
シャツを腕から抜いて、すぐに城之内を倒す。
唇を塞ぎ、服を全て脱がせ、足を割る。
腹にある小さな傷たちに口づけ、臍の横の爛れた火傷の後に舌を這わせる。
そのたびに反応を返す城之内の身体は薄くピンクに色づき、扇情的に見せる。
既に性器は硬く立ち上がりはじめている。
口に含めば嫌がるように身をよじる。
口でされるのは嫌だと、城之内は海馬に言った。
共に気持ちよくなければ、嫌だと、城之内は言う。
それを知っているから、海馬は口で奉仕する。
質が悪い、と城之内は荒い息で呟く。
たびたび漏れる嬌声は普段の城之内からは想像できぬほど色がある。
城之内の存在そのものが海馬を誘う媚薬になる。
我慢がきかず、海馬の口の中で達した城之内は頬を染め、ぼんやりとした焦点の合わぬ目で海馬を見つめる。
射精した後の表情を海馬は気に入っていた。
本人に言えば顔を真っ赤にして嫌がるだろうから、海馬は口に出しては言わない。


城之内からはどこからも生きた人間の匂いがする。










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