その世界は白かった。
何が白いのかと聞かれても、自分には「白かった」としか言いようがなかった。
空もなく、海もなく、地上もなく。
上下左右さえ定かではない世界。
なぜそこに自分がいるのか、そのことさえ理解できなかった。
ただ、このまま浮遊しているのは嫌だと思ったら地面が出来た。
足が地に着き、安堵の溜息を吐く。
そして、ふと思う。
自分はどうして地面というものを知っているのだろう。
どうして、足をつく場所があると安心出来るんだろう。
一人、首を掲げて考えるのをやめた。
恐らく、自分がどんなに考えてもわからないことなのだと、知っていたから。
白だけじゃ味気ない、と思って空と海を思い浮かべた。
青い空と、青い海が現れた。
その世界は、白と青の2色になった。
暫く白い砂浜を歩いて、風がないことに気がついた。
すると直ぐに髪をなぜる風が吹いた。
気持ちがいい。
眼を閉じて、風を感じて、青を思い浮かべて、一人の男を思い浮かべた。
知らない男だ。
焦げ茶の髪に、青い瞳に、白いシャツと白いズボン。
誰、と口に出して、思わず眼を開けた。
目の前に、男が立っていた。
「間抜け面だな」
「うるせー」
二人並んで砂浜を歩く。
風は優しく二人を包み、波の音と、青い空が何処までもつづくこの世界に、二人だけ。
「貴様が望めば人は増える」
自分の考えていたことに答えるように青い眼の男は言ったが、首を横に振った。
二人だけで十分だと、思った。
二人だけだから、男の手に触れれば握り替えしてくれる。
白い砂浜と青い空と青い海の世界に青い眼の男と金色の髪の男は手を繋いでどこまでも歩いていった。
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