零れた香水
「うあ!」
城之内の叫びと共に、硝子の割れる音がした。
何事かと音源の先を見れば床に散らばる硝子の破片と少量の液体が広がっていた。
「ごめん海馬!落とした!」
「見ればわかる。」
よくみると城之内の服にも液体が飛び散ったのか斑点の染みができていた。
近づけば、嗅ぎなれた芳香が鼻についた。
「匂いつけか、犬らしいな。」
「犬じゃねえ!城之内だ!」
噛み付いてくる城之内から香ってくるのは、自分が普段使う香水の匂い。
ふむ、と城之内を見下ろす。
「?なんだよ?」
「…悪くないな。」
「は?」
「貴様から俺と同じ匂いがする…」
耳元に顔を近づけ、匂いを嗅げば城之内は身体を勢いよく引いた。
顔を赤くしたまま何か言いたいのか口をぱくぱくと金魚のように開いている。
「自分のものだと主張しているようでいいな。犬の匂いつけも悪くない。」
「犬じゃないって…、なんつーか、恥ずい奴…。」
まだ顔を赤くしたまま顔を押さえてしゃがみこんだ城之内は慌てたように立ち上がった。
「どうした?」
「…お前の匂いしかしない。」
下を見れば、床は零れた香水で染みをつくっていた。
顔が緩むのを止められないのは、目の前にいる存在が愛しくたまらないからだということを海馬は知っている。
そのまま抱き込めば、おずおずと抱きかえしてくる城之内は、海馬の匂いに包まれていた。










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