もういない
別に、好きな人ができたとか、あいつにはついていけないとか、そういうわけではないんだ。
ただ、お互い少し大人になって、ずれ始めた関係に焦ってしまって。
気がついたら3ヶ月顔を会わせていなかった。
少し、ほんの少し前までは3日と離れてはいられなかったのに、今では寂しくも苦しくもない。
ただ、ふとした瞬間思い出すだけ。
携帯の着歴から海馬の名前が消えて、他の人間の名前でうまっていく。
前は海馬からしか電話はかかってこなかったのに。
これが自然消滅なのかと思ったけれども、それもなんか違う気がした。
心が離れても、どこか海馬に繋がっていると思っていた。
それは自分の思いこみに過ぎなかったのだけれど。







暫くして、海馬から連絡がきた。
電話越しに聞くやつの声は少し疲れているように思えた。

「けじめをつけようと思った」

「ああ」

「別れよう」

「うん、じゃあな」

そして途切れた電話と関係。つきあい始めた頃は、海馬がいつ別れ話を持ち出してもいいように身構えて、でもそんなこと言われたら泣いてでも引き留めようと思っていた。
相手も、多分そう思っていてくれていたと思いたい。

あの時、世界に2人だけがいた。








夢をみた。
高校の頃の、カードの試合やら友人たちとの会話やら、海馬との時間まで。
楽しかった。
懐古趣味があるわけでもない、今が楽しくないわけでもない。
だけど、あの頃は毎日が新鮮で楽しかった。
目が覚めた後、久しぶりにカードを出してみた。
専用のケースに大事にしまわれた、宝物。
一枚一枚確かめるように、懐かしむためにじっくりと見た。
そして、あるカードで手が止まる。
レッドアイズ。
城之内が一番気に入っていた、大切な大事なカード。
暫くそのカードを眺めて、自然顔に笑みが浮かぶ。
再びケースにしまって、ふたを閉めようとしたら、一枚紙切れが床に落ちた。
拾い上げて、ひっくり返しみて、城之内は固まった。
いつとったのか、どこでとったのか、既に覚えていないその写真。
城之内は全開の笑みで、海馬はいつもの無表情で、でも目はすこし柔らかくて。
涙が、出た。












何がいけなかったのか、城之内にはわからなかった。
ただ、すれ違って、会えなくなって、それで最後は仕方がないって別れて。
どうして平気でいられたのだろう。離れていられたのだろう。
胸を突く痛みは、心を占める思いはあの頃と少しも変わりはしない。
違うことは、隣に海馬がいないだけ。
携帯に手が伸びて、指が覚えているまま番号を押そうとしたが、最後の数字で城之内は電源を切った。
膝を立てて頭を抱え込んで、時が過ぎるのを待った。
胸の痛みが、収まるのをまった。
もうどうしようもないどうしようもないどうしようもないのだ。
海馬が必要ないと言ったのだ、城之内はもう何もできなくなってしまった。
胸の内にしまった臆病な心がざわめく。
昨日となにも変わっていない今日。
昨日まで平気でいられたのだ、これからも平気でいられると、まるで呪文のように頭の中で繰り返す。
そう、何も変わりはしないのだ。






ただ、君がとなりにいないだけ。










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