密やかな
学校の、屋上へとつづく階段の踊り場で、約束がある。
毎週火曜日、放課後に集合。
別に、そう言葉に出して約束したわけではない。
ただ、火曜日の放課後にそこにいけば会えるだけのこと。
夕焼けの、何もかも赤くなる様は人を引きつける。
そして、同時に恐れを抱かせる。
人間の根底にある恐怖だと、城之内は思う。
逢魔が時。
誰もいない赤く染まった廊下を一人歩き、窓越しの夕日を見やる。
昔の人はよく言ったものだと、誰かが言っていたのに城之内は賛同した。




一段一段、踏みしめて登る。
見えてくるのは、あいつがいつも履いてる高そうな靴。
顔を上げれば、先程の自分と同じように窓越しの夕日をみている海馬を見つけた。
挨拶など、自分たちにはいらない。
ただ、黙って隣に立って、寄り添う。
身長の差のせいで、海馬の肩に頭を寄りかける体勢になってしまう。
とん、とのせると、神経質そうな手が髪に触れた。
細くて、長く、きめ細やかな肌を持つ海馬の指。
髪を撫でられ気持ちよさに目を閉じる。
瞼を閉じても感じる赤を先程よりは恐いとは思わない。
ふと、赤に黒が覆い被さり、人の体温が近づいた。
目を開けなくても、自分が海馬に抱きしめられ、キスをされていることはわかる。
密やかに交わされる睦言は、世界赤く染まる一瞬のみ。
だからこそ、城之内にはとてつもなく甘く聞こえるのだ。





赤の恐怖か、恋の動悸か。
それがわかることを恐れて、お互いこの約束を守り続けている。










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