使い捨てカメラを買ったのは、ただの気まぐれだった。
自分の家にカメラなどない。
だから写真もないし、アルバムもない。
小さい頃の写真は母が持っていったので、手元にはなかった。
写真に残すような思いでもなかったし、残したくもなかった。
友人が持ってきたカメラに何枚か写る程度で充分だと思っていた。
だけど、ある日突然自分で写真が撮りたくなったのだ。
学校の写真とか、バイト先とか、海馬の家とか。
だから、使いすてカメラを買った。
「海馬」
名前を呼ん、で振り返った海馬を撮る。
突然のフラッシュに、嫌そうな顔をする海馬に笑顔を見せて、カメラを見せる。
「なんだ、それは」
「カメラ」
そんなことはわかっている、と顔にアリアリと出す海馬も、撮ってみる。
見事に機嫌の悪くなる海馬に、妙に浮かれる自分。
きっと、この写真を見てそんな場面を思い出す。
今から楽しみで仕方がない。
「撮るな」
「なんで」
包み隠さず不機嫌です、と振り撒いている海馬はこちらに背中を向けてしまった。
海馬の背中を撮っても仕方がない。
俺は、海馬の顔が撮りたいのだから。
「なー、こっち向いて」
「断る」
ソファに座って、会社から持ってきた書類にばかり気をとられている海馬にむっとしながら、手の中のカメラをいじる。
今日、このカメラで色んなものを撮った。
学校のみんなとか、バイト先の店長とか、海馬の家のメイドさんとか、モクバも撮った。
だから、残りはあと僅か。
使い切ることを、嬉しいと感じるのと、まだまだ撮りたい、という物寂しい感じ。
妙に浮かれてしまう。
「海馬ー笑え」
「断る」
「じゃあ、一緒に写って」
「・・・・・」
返事を聞く前に、部屋の外で待機してもらってた執事さんを招きいれて海馬が座っている横に座る。
諦めて、カメラに目線を向ける海馬を嬉しく思って思い切り笑う。
この写真が現像されたら、恥かしいが財布にでも入れて持ち歩こうと決めた城之内だった。
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