見えない音楽
歌は、好きだ。

子供を寝かす歌、愛を伝える歌、悲しみの歌、亡くなった人を送る歌。

僕たちの生活の中にはいつも音楽があった。

それは、母がピアニストで、父がヴァイオリニストだったのも関係している。

僕と、双子の兄も小さな頃からヴァイオリンやらピアノやらを習っていた。

母は、楽譜を見てこの通り弾きなさいということはなく、
母が弾いたものを、自分で音を探って弾いていくというものだった。

父は、僕たちに直接指導することはなく、僕たちが音楽を楽しんでいるのを見ているのが好きな人だった。

昔自分が出来なかったキャッチボールや秘密基地作りを、僕たちと一緒に父は楽しんだ。



幸せな家庭、そんな家に生まれたことを幸福と感じた。

僕たちが10になった時、父が交通事故で死ぬまで。



それでも、僕たちは父の分まで生きよう、幸せになろうと、決めた。

それから一年も経たないうちに、僕は病気で失明した。

医者から一生光を見ることはないと、宣告された。

僕は、絶望という言葉を知る前にその意味を、知った。










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