秘密
小さい頃から不思議な力を持っていた。
レムが大事に育てていたお花を、枯らしてしまった時。
どうしよう、レムに嫌われてしまう、とあの時は世界の終わりのように感じていた。
お花さん、ごめんなさい、元気になってと、鉢ごと抱えて、そう呟いた。
泣きじゃくって、泣きじゃくって、いつのまにか疲れて眠っていた。
目を覚まして、抱えていた鉢をみると、花は見事な程に咲き誇っていた。
よかった、これでレムに怒られない。

次は、ナイヴズが怪我をしてしまったとき。
一緒に遊んでいて、ちょっとした喧嘩をした。
今では何が原因だったのかも思い出せないほど、些細な、そして昔のこと。
取っ組み合いになって、思いっきりナイヴズを押したら。
ナイヴズは階段を転げ落ちていった。
僕は、その時落ちていく瞬間のナイヴズの顔を忘れることはできない。
階段の一番下まで落ちで、動かなくなったナイヴズを見て、足が震えだした。
遠くでみていたレムがナイヴズに走りよって行くのをみて、僕も震える足をなんとか動かしてナイヴズの元へと走った。
階段を一段一段下りる毎に心臓の音がドクンドクン、と大きくなっていくのがわかった。
ナイヴズは、顔を苦痛で歪め、足から血を流していて、レムは大きな声でナイヴズの名前を呼んでいた。
その時、恐怖が、悲しみが、溢れてきた。
ナイヴズの手を取って、ごめんなさい、ごめんなさい、と謝って、神様に祈る。
僕はどうなってもいいから、ナイヴズを助けてください。ナイヴズを助けて。
目の前が涙でぼやけて、よく見えなかったけど、レムが僕に向かってなにか叫んでいるのが聞こえた。
それから、僕の記憶はとぎれている。
気が付いたら、ナイヴズとレムが心配そうに僕の顔をのぞき込んでいた。
ナイヴズが、ヴァッシュ、と僕の名前を呼んで、レムが優しく僕の頭を撫でて。
怪我は、と言うと、ナイヴズが少し困った顔をして、無傷だよと言った。
よかった、よかった。神様ありがとう。
ごめんねと、謝り続ける僕に、ナイヴズは気にするな、といつものしかめっつらで答える。
暫くして、レムが真剣な顔で僕の名前を呼んだ。

「ヴァッシュ、よく、聞いて」

「貴方には、不思議な力があるの」

ふしぎな、ちから?

「ナイヴズは・・・怪我をしていたの、血も出ていたわ」

「だけど、貴方はその怪我を治したの」

怪我を、していた?ナイヴズの方をみる。
絆創膏も、包帯も巻いてない。擦り傷もない。どこに、怪我をしたの?

「原因は、分からないけど・・・、今度から誰かが怪我をしているのを見たら、誰か他の人をよんで。」

そんな、その人を見捨てるの?レムが、そんなことをいうの?

「・・・貴方が、心配なのよ・・・」

レムが、泣きそうな顔をしたから、僕は頷いた。
わかった。誰か怪我をしたら、他の人を呼ぶ。ナイヴズの時みたいに、神様に祈らないようにするよ。
レムとナイヴズと僕。三人だけの、秘密。











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