ソファ
隣にいる男が、動かなくなってからどのくらいたったろうか。
孤児院の子供達を乗せた船がここを飛び立ったのはどのくらい前だろうか。
隣に静かに座る男と酒を交わしたのは、どのくらい前だったろうか。
背中合わせに戦ったのはどのくらい前だろうか。
この男に助けられたのは、
共に旅をしたことは、
迎えにきたのは、
どのくらい前だったろうか。
・・・・・・初めて、会ったのはいつのことだったろうか。



「ねえ、ウルフウッド。空が青いね。」

「ねえ、ウルフウッド。帰ってこれたじゃないか。」

「ねえ、ウルフウッド。そういえば覚えているかい、僕たちが初めて会った日のことを。」

「君は行き倒れてたんだよね。バイクが壊れちゃって。」

「保険屋さんたちと、一緒にさ、バスに乗ってて。」

「僕は楽しかったよお。保険屋さんたちは今どうしてるのかな?」

「彼女達のことだからきっと、元気にしてるだろうね。」

「・・・・・・・・・・・君は、幸せだったのかな。」



隣に座った男が動かなくなってからどれくらい経ったろう。
僕は、何をするでもなく空を見上げて、独り言をいう。
そう、これは独り言なんだよね。
君にはもう聞こえないから。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神様もう一度だけ。彼に。



たった、一度の願いを。



青い空に、醜く成長を遂げる船を見つけ、覚悟を決めよう。
この、酷く居心地のいいソファから立ち上がる覚悟を。








神様、たった一度です。たった一度だけですから、この願いをかなえてください。












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