1、舞う
まるで、踊りのようだと。





手に残る痺れに、先ほど打ち合った男の技量を改めて知る。
じわりと広がる熱に、あの鋭い視線が頭を占める。
久し振りに、剣を合わせて気分が昂揚した。
終戦を迎え、居場所を無くした侍達も今の現状に不満を抱きながらも落ち着き始め。風の向くまま、とでもいう様に街から街を渡り歩いてきたが、ああまで戦いを追い求めた男には出会わなかった。戦で何度か見えた事のある、戦いを、剣戟の音を追い求めた者達の大半は戦で真っ先に命を落として行く。
あの男は運が良かったのか、それとも運が悪かったのか、今の平穏な時に取り残されてしまっている。
死人のような、目。あの赤い瞳を思い出し、カンベエは一人笑みを浮かべる。
死人なのは、己の方だ。あの男は、戦いの場以外は形を潜めてはいるが、奥底には常に戦の臭いを追い求める心を持っている。空気の抵抗など感じさせない、人の身体の美しさを最大限に引き出すような動き。髪の毛一房、纏っている衣の裾でさえ一体となり、まるで舞のような動きのそれに、カンベエは夢中になった。






人と、斬り合うあの瞬間の、昂揚。
言葉で説明できるものではない。それを体感した者だけが知っていればいいのだとキュウゾウは思っている。時折、尋ねられる時がある。なぜ、刀を持つのか、と。
キュウゾウは、逆に問い掛けたい。なぜ、それを問うのかと。
戦が終わり、何かの波に流されるように辿り付いた人込みはキュウゾウの嗅覚を、知覚を、視界を気づかぬうちに奪っていたらしい。鈍間な人々。彼らの問いかけに応える術をキュウゾウは持たず、応える気さえなかった。この刀を何故手放さないのか。わかりきった事を、そう思うのはキュウゾウと、ここ数年、常に行動を共にしている男くらいのものだ。
じわりと、熱の篭る掌を、開き、閉じる。それを何度も繰り返し、繰り返し。自らの手と、一体となりつつある剣先から伝わった熱気。痺れ。
握り締めた拳の上。
そこに愛しいものでもあるかのように、キュウゾウは静かに口付けた。







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