もう、会うこともないけどさ。あんた、すぐご飯とか抜くし。ちゃんと三食喰えよ?
面倒くさいって言って、水しか呑まねえとか、カロリーメイトで済ますとか、それやめろよ?
あと、徹夜で研究室に篭るのもやめろよ。また前みたいに鍵閉められて、閉じ込められるから。
ちゃんと家に帰って、きっちり寝てから大学行けよ?
すぐお前、生活全般疎かにするんだから。人としてそこはやっとけよ。
煙草も、吸いすぎんなよ?心労溜まるような場所だけどさ、やっぱ、体に悪いから。
・・・・死んだり、すんなよ?
まあ、お前みたいな奴は昔の女とかに刺されたりとかありそうだけどさ。
刺されても死ぬなよ?何が何でも、生きてろよ?
まあ、もう会うこともないけどさ。
じゃあ、俺そろそろ行くわ。や、だってもう時間だし。
・・・・じゃあ、行くな?
泣きそうな笑顔でばいばいと、別離を告げた一護が出て行った扉を見詰めて浦原は動かなかった。座り心地の悪い固いソファに深く座って、じっと扉を見詰めている。
一護が出て行った扉。いつも、一護が入ってきた扉。共に並んで入った扉。時には縺れ合うように飛び込んだ。唇を会わせ、舌を絡めながら、あの扉を開けた。今、その扉は閉められたままで。
もう、あの子がこの扉を開けて、自分に会いに来る事はない。もう、自分に会いにこない。こっちから会いにいっても、彼はもう自分じゃない誰かを隣において。そこは自分の場所だった。ついさっきまで、一護の隣に立っていいのは自分だけだった。
ぎし、と固いソファが軋む。その音を聞きながら、何度ここで一護を抱いただろうか。数えてみたけど、途中からわからなくなった。それくらい、たくさんした。この固いソファで、柔らかなベッドの上で、時には玄関口で、研究室で、一護の部屋で。今でも一護の体を覚えてる。声を覚えてる。顔を覚えてる。だけどそれは全部自分の記憶の中の一護。
現実の一護は、もういない。
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