4、うそつき
男の言葉に真実の欠片もあるのかと、一護は疑っていた。
見た目から胡散臭い男。口調もどこかおどけてみせて。行動もなんだか馬鹿にされてるみたいで。だから、そんな男に好きデスヨ?と愛を伝えられても一護は信じてはいなかった。嘘、だと思った。けどその嘘に飛びついた。男の言葉に、少しでも真実があればと思って。だって。好きですよって言われて嬉しかったんだ。すごく。

だから、男のどこかに真実があればいいと思った。自分を見つめる目に。好きだと言う言葉に。抱きたいというその腕に。体温を共有するその行為に。必死で探した。何気ない仕草の中に少しでも男の真実はないかと目を凝らして、凝らして。見つけたものは、一護に悲しみと苦しみしか与えなかった。絶望だとも、思った。

男が自分に向ける思いに一体何がこめられていたのだろうか。愛を囁いた言葉に何が含まれていたのだろうか。抱きたいと言われて、繋がった体に熱はあったのだろうか。キスに、思いはあったのだろうか。最初は嬉しかったキスも。最初は恥ずかしくて、でもすごく幸せだったセックスも。なんでこんなに悲しいんだと涙を堪える行為になってしまった。

「ねえ、どうして泣くの?」

気持いいんでしょ?なんで、そんな苦しそうに泣くの?優しい言葉。だけどそれも嘘。答えないと、という風にさらに足を抱え上げられ、奥まで穿たれた。ああ、と漏れる声は直ぐにでも泣き出してしまうような響きが篭ってしまった。失敗した、と思った。けど、遅かった。

「ねえ・・・黒崎さん?」

熱い体。でも冷える心。あんたが好きだと叫ぶ心に。うそつきと罵る頭。
好きだ。好きです。
お願いだから。ほんとに好きになって。

「うぇっ・・・。好き・・に、なって・・・」

子供みたいに泣いた。ひゃっくりみたいな嗚咽が溢れ出て、一護は泣いた。もう嫌だよ。あんたの嘘を聞かされるのは。あんたの嘘に抱かれるのは。繋がった部分。そこだけが、それだけが一護と浦原を繋ぐ場所なのに、浦原は身を引いた。中途半端な欲望が、その熱を追いかける。募った恋情が浦原の熱を求める。浦原と繋がっているものが何もなくなってしまった事が悲しくて、一護は泣いた。

「ねえ、黒崎さん」

顔の上から降り注ぐキス。降り注ぐ言葉。

「好きですよ?」

告げられた言葉の甘さに、一護は更に泣いた。

「うそつき」

やっぱり、男のどこにも真実はなかった。






戻る