12、いっそ狂ってしまえばいい



どれくらいの永い時間を、こうして何をするでもなく横になって、変化のない景色を眺めているだろうか。
誰が訪れる事もない、無音の空間。そこに一人残され、一体どれほどの時が過ぎ去ったか。
流れ往くものも無く、視界に飛び込むのは光を反射するような汚れ一つない世界。
穢れそのものだと罵られた己に、この世界は酷く眩しい。もしかしたら、光にやられて既に己の目は機能していないのかもしれない。
それすらも、眩しいまでの白に包まれた世界では確認さえできない。
手を上げる気力も無く、身を起こす気力など当の昔に無くした。
それでも何故か生き長らえている己の体を、憎むことさえ止めたのはいつであったか。
はあ、と溜息を吐き出せば、僅かながらも己の吐息が耳に届く。


どうせならば。

どうせながら何もかもを奪ってくれればよかったのに。


僅かに与えられる自由に、苦しめられる事などなかったというのに。
これが、罰か。
罪を犯した己に与えられる、永遠に続く罰。
手っ取り早く、と、殺してくれない辺りがあの糞爺らしいと、久しく動かしていなかった口の筋肉を緩めた。


(お前さ、)

(その笑い方やめろよ)


そう言って、嫌そうに顔を顰めた人の声までも覚えているなんて。
「…酷い、地獄だ…」
どうせならば。
全て、全て消し去ってくれればよかったのに。
「…狂ってしまえ…」
この眩しい、光の世界も。
いまだ思考を放棄しない己も。
あの人の声も、顔も、仕草も覚えている未練がましさも。
いっそ狂ってしまえば良かったのに。




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