6、忘
忘れるはずのない、自分の誕生日。
本当の、自分が生まれた日ではないけれど、乱菊にとって、その日は決して忘れない日だった。


十番隊隊舎の、副隊長の机の上に、これでもかと色とりどりの花がおかれていた。自分の名にもある菊に、萩、見せばや、女郎花、桔梗、不如帰にやぶらん、竜胆、吾木香。名も知らぬような花も交え、きちんとした花束ではなく、敷き詰めるように置いてあった。
それは、整頓された隊舎内で異様な風景。
「・・・・松本、誰かに恨まれる事でもしたのか?」
我らが隊長は、乱菊の腰くらいの身長で、自分の部下を心配している。
綺麗にラッピングされた花が置かれていたことは過去に何度かあったのを、小さな隊長は記憶しているが、それらは全て乱菊を慕うものたちからのプレゼントだと言われたが。
これは明らかに。
「・・・・・いじめだろう」
机の上に、一杯にある花は、誰かが摘んできて、そのまま置いていったように積まれていて。心優しい隊長の一言で、堪え切れず笑いが出た。
花の贈り主の行動と、小さな隊長の心遣いに。
「大丈夫ですよ。犯人はわかってますし・・・、でも、綺麗じゃないですか。」
赤・青・黄色・白。花の色。葉の色。柔らかくて、好きだといった乱菊の言葉を、覚えていてくれた人がいる。それだけでも嬉しいのに、こうして自分でとってきてくれたなんて、舞い上がる程幸せだ。
「誰なんだ?犯人。」
いつもしかめっつらな隊長の、眉間の皺に人差し指を当てて、その指を口元に持ってきて囁くように。
「秘密です。」
眉間の皺が増える上司に、軽やかな笑い声を残して、十番隊副隊長は執務室を後にした。

一番隊に書類を提出して、締め切りが近づいた届けを出して、さて、今日のお仕事は終了です。隊長が執務室で大人しくしているわけもなく、いない隊長を待っても仕方ないとばかりに、お先失礼しまーすと残業中の部下に挨拶をして。今日は早く帰らせてもらいます。だって帰れば。
「お帰り」
ほら、花の贈り主がお待ちかね。





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