仕掛けたキスは、本気じゃない、おふざけの延長だ。
口を塞がれた一護は、むーむーと色気なんて知りませんとばかりに非難の唸り声を上げるが、それは虚しく浦原の口の中に消えた。ぷは、と口を離してあげれば待ってましたとばかりに一護は酸素を吸い込んだ。吸い込んだついでに、今度こそ罵声を浴びせるべく口を開くと、浦原は再び口付けを仕掛けた。さっきのキスとは打って変わって、熱の篭ったものを。
開かれた唇に遠慮なく舌を挿しこみ丹念に、そして執拗に口内を弄る。抵抗の意思を見せる一護に、うるさいとばかりに舌を絡めとリ、こちらに意識を集中させるように吸い上げた。びくりと、抱き込んだ体が震える。スイッチが入ったように、途端抵抗が弱まる子供に、心の中で意地の悪い笑みを浮かべる。目を薄く開けて、ぼやける程近い顔を見る。そんなに力を入れなくてもいいのに、と思うほど一護は必死に目を閉じ、口内での蹂躙をやり過ごそうとしていた。そうはいかないと、隙だらけの胸元に手を伸ばす。
「?!むぅっ!!」
綺麗な色の乳首を摘めば、キスで精一杯だった子供はあまりの事に目を見開く。自分の指先一つで、簡単に隙だらけになる子供に、自然顔が緩む。再び僅かだが抵抗を始める一護に対して、浦原は容赦なく攻め立てた。
「ん、・・・・・くぅ、ん・・・!」
口の端から漏れるくぐもった声は色を帯び初め、心地よく浦原の耳を撫でた。調子にのって、さらに深く口付ける。逃げようとする頭を押さえるため、後頭部に添えた手を髪に絡め、固定する。流石に苦しくなったのか、懸命に胸を叩かれ、名残惜しそうに唇を離した。くちゅりと、水音と共に唇を離すと、酸素を得る為に大きく開かれた一護の口から唾液が漏れる。顎を伝う唾液さえも惜しいと言うように、浦原はそれを舐め取った。
「っは・・・」
吐息に混じる声は疲れからか、それとも快感からか既に掠れ。
「ねえ、黒崎さん」
後頭部に添えた手で、短い襟足を軽く引っ張りながら、意識した低い声で、耳元に囁く。
「あ・・・」
「まだ、嫌?」
居心地の悪そうな顔で、こちらと目を合わせないように顔を横に向けられてしまった。
「ねえ、まだ今日は駄目な日?」
「・・・・!ううううるさい!しつこいぞ!」
くすくすと笑いながら尋ねれば、背けた顔を急いで戻して睨みつけてくる。
(やっぱり、可愛いなあ)
相当参ってる自分と、真っ赤な顔で睨みつけてくる少年に、笑いがこみ上げる。どうやら、今日は表情筋が緩まっているらしい。先程から収まらない笑みに、情けないなあと思う大人と、ドギマギする子供。ふわりと柔らかな笑みを絶えず浮かべる大人に、行為に慣れぬ純な子供は抵抗さえ忘れて見入ってしまう。大人が自分を笑うように、子供も相当参っている自分に悔しいやら、恥ずかしいやら。
こうして、押し倒されて抱きしめられているだけで一護はどうしていいのか分からなくなる。自分と違う、大人の男に迫られて、蕩ける様なキスをされて。行為に対する照れは、何度体を重ねてみても、男に何を言われても無くなるものではない。一護自身、どうしてこうも恥ずかしいのかわからないのだ。戸惑う一護の顔中に、優しくキスを送る浦原は、そうした一護の照れを理解して、時にはからかいの言葉を投げてくることもあるが、大抵は優しく、こうして一護が落ち着くまで宥めてくれる。恥ずかしさも、幾分薄れ、行為に対する覚悟もある程度は決め。浦原は、そんな一護の心を見計らったようなタイミングで艶を帯びた手を伸ばしてきた。
「あ、」
戸惑いの声に、僅かに篭る期待を聞き取り、浦原は惹かれるように一護の体へ手を伸ばした。
「っ・・・はっ・・・・」
苦しげな声が静かな室内に響き、声に煽られて互いの熱が上がるのがわかる。
日が暮れた室内は暗く、僅かな光源は、筒行灯の灯りだけ。部屋の雰囲気に合わせようと、テッサイが買ってきてくれたのだと、先程から自分を翻弄している男が言っていたのを思い出す。熱を帯びた体に浮かぶ汗が、肌をなぞる雫となってシーツに吸い取られていく。仰向けで足を大きく折り曲げられ、男の眼前に秘部を晒す格好に、快感で呆けた頭は沸騰しそうな程の羞恥に襲われた。男同士の性交に、その場所が使われているのは、知識として頭には入っていたが、こうして自分で実践する羽目になるとは昔の自分は思いもよらないだろう。
長い、骨ばった指が中で蠢く。
異物感が強い行為なはずなのに、この男が上手いのか、実は自分に才能があったのか(そうは考えたくないが)、背中を駆け上がるものは、快感だった。膝が胸につくほど折り曲げられた体制はきつく、呼吸も荒いものになる。指による刺激と、耳に入る卑猥な音と、視界に映る男の情欲な瞳と、あの、綺麗な指が自分の中に入っているのだという思考で、一護の体は燃えていまうんじゃないかと思うほどの熱を持っていた。それは、一護の欲を駆り立てた男にもわかった。その熱につられ、膝の裏を掴む手に、つい力が篭る。既に一度達している一護の体は火照り、しっとりと汗ばんでいた。手に吸い付く肌は、いつまでも触っていたくなる極上の手触り。指を増やされる度に抵抗を見せる内襞は、侵入を許せば驚く程柔らかく、熱く指を締め付ける。
一護には言った事はないが、浦原は最初の行為で一護の中に押し入った時、今まで感じた事がない程の快感を感じた。相手に対する想いの違いもあるだろうが、一護の体は具合が良かった。締りがいい、と言えば良いのか、相性がいい、と言えば良いのか。きっと、こんな事を言ったらどこか潔癖な所のある少年だ、真っ赤を通り越して顔を真っ青にするに違いない。少年らしい、骨ばかり目立つ体が綺麗にしなる様は美しく、肌は色を帯びてくるごとに滑らかになっていく。普段は低音の声が、高く掠れ、か細く欲を漏らし、懇願を訴えてくる様は、男の欲を揺さぶった。いつも不機嫌そうな、子供の潔癖な顔が、羞恥と快感で苦しそうに歪み、涙を耐えた瞳で見上げてくる様は壮絶だ。
あまり、房事で箍が外れる事のない自分が、この子供が相手だと、嘘のように溺れた。
指を締めつけられる感触に、抑えが利かなくなる。
「・・・・・・あー・・・、黒崎さんごめんなさい。」
先に謝っておきますと、悪びれなく言う男の声が常より数段低く、欲に掠れている事に、一護は震える体を抑えるのに精一杯で気がつかなかった。
「・・・・?なに・・・?・・・・・っ」
舌の回らない、甘い口調の疑問を、濡れた視線と共に投げかけた一護は、突然抜かれた指に息を詰めた。一護が息を吐き出す前に、浦原は濡れた手を膝の裏にかけ、大きく足を割る。両の足を掬われ、更に体を折り曲げられた格好の一護は、苦痛の声をあげた。
「ぅっ・・・!う、らは・・・・・っあぁ!!」
非難しようと開いた口は、予告もなく侵入してきた浦原の欲に悲鳴を発した。達した体は弛緩し、さらには指で解されてはいるが、本来の用途と違う行為を強いられる器官は痛いほどに浦原を締め付け、拒絶する。
「・・・・黒崎、さん・・・も少し、力、抜いてもらえます・・?」
食い千切られそうだと、苦痛を訴えながらも、浦原は恍惚とした表情を浮かべ、己に組み敷かれる少年を見た。ぎちぎちと、容赦なく入ってくる熱に、体は悲鳴をあげ、目の奥で光が弾ける。
「は、・・っは!・・・・・ぁっ」
無理言うな!と言いたいのに、口から出るのは意味を成さない呻きと、呼気だけで。はっはと忙しなく呼吸する一護の体は突然の痛みに筋肉を凝縮させ、浦原の熱を締め付けた。そのせいで、一護に体内に自分のものとは違う、他人の熱が入っているのだということをありありとわからせてしまい。ぞわり、と背中を駆け抜ける震えは、浦原にも伝染した。
痛いくらいの締め付けも、この子供と体を重ねていることを実感させてくれるもので。あまりの衝撃に、先程まで浮かべていた快感の顔が、苦痛の為に歪むのを見て、むくりと、黒い感情が沸き起こる。苦痛で萎えた一護の性器を緩く握りこむ。明るい髪よりも、少し濃い色の下生えを掻き分け、柔らかなモノを撫でるように摩った。
「あ、ぅん・・!」
苦痛と共に与えられる愛撫に、鳥肌が立つ。小刻みに震える体は前の後ろを攻め立てられ、時折りびくんと背中を反らした。ぐぐぐと、足を押され、自然と上がる腰に腹筋が痛い。
「黒崎さん、」
名を呼ばれ、閉じていた目を開いて、飛び込んできた映像に驚愕した。浦原の、男にしては細い綺麗な指が自分の性器に絡み、てらてらと光に当たって濡れている。しかも、男の欲が、自分の体に埋まっている様も視界に入り。うあ、と目の前が真っ赤になる。
「気持、いいですか・・・?」
囁くように言われ、一護は堪らず手で顔を覆った。己が男に抱かれているだという事を見せ付けられたようで居た堪れない。そんな子供の動作に、男はふっと笑った。
「ねえ、教えてくださいよ・・・、気持、いいですか・・?」
「何言って・・!あぁ・・んっ」
勃ちかけの性器をなぞっていた指の輪を狭まれ、強すぎる刺激に頭が混乱する。
「ねえ・・」
「ぅん・・・・・・!っは・・・っ!」
足にかかっていた手が腰に回され、体が浮き上がった。肩に体重がかかる。体勢を変えられ、更に深く埋め込まれた熱に、体は蕩けそうだった。浦原の体が被さってきて、胸が重なる。その間も、緩く性器を扱かれている一護の体は、強い刺激を欲して疼く。けれど、浦原は動こうとせず、鎖骨を噛み、硬くなった胸の突起を指で潰す。
「うらは、ら・・!も、う・・!」
そんな弱い刺激じゃなくて、もっと、身を焦がすような、貪られるような刺激が欲しい。浦原の背中に腕を回して、懇願の意を込めて唇を合わせた。くちゅりと、卑猥な水音が、口からも、繋がっている部分からも漏れた。全身で欲しいと訴えてくる一護に、けれど浦原は腰を進めようとはしない。一護の口から欲しいと聞きたかった。
「っは・・・・気持、いいですか?」
アタシは気持良すぎて、おかしくなりそうですよ。
「っはあ、っは、・・・気持、イイ・・・・っ」
惚けた声で、我慢できないとばかりに腰を揺らされ、浦原は理性を手放した。
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