『本商品に欠陥や、不良が発覚した場合、新しい商品と交換いたします』
そんな言葉を添えて、それは手紙と共にやってきた。
どうして、そんなものが自分のもとに届くのか、浦原は自らの記憶の中から原因となりそうなものを探り出す。腕を組み、頭を少し斜めに傾かせた浦原の前には、きょとんとした顔で、同じように首を傾かせる小さな子供。曇りなどない、澄み切った綺麗なブラウンの瞳で見詰められて、後ろめたいことなどないのに、妙に心がざわめく。もう一度、手元の『説明書』と書かれた紙を見て、商品名を確認する。
「一護・・・?」
「はい!」
紙に書かれた、商品名の部分を口に出して読んでみると、目の前の子供が元気良く返事を返してきた。どうやら、この子供は一護、というらしい。だから、一体どうしてここにいるのかという解明には繋がらない。
「えーっと・・・一護、さん?」
「はいっ」
顔を覗きこんで、尋ねてみれば満面の笑みに、きらきらと目を輝かせてこちらを見詰めてくる。その純粋さに、思わず眩しく思い顔をそらしたくなる。なぜ、己がそうまでこの子供に、恐れのような感情を抱いているのか浦原は度惑いと、苛つきを上手く隠して、作った笑顔で問い掛けた。
「アナタ、何?」
「・・・・?いちご、だよ?」
さっき、名前を呼んだじゃないかと、そんなわかりきった答えを聞いてどうするのかと言う風に、一護という名の子供は、きょとりと浦原を見上げた。出そうになる溜息を喉元で消して、務めて優しく、もう一度子供に問い掛けた。
「一護さん、あなた、どうしてここにいるの?」
「・・・・・?だって、きすけが呼んだんでしょう?」
僕を。
呼んでなどいない。むしろ、今ここにいることで、この子供は浦原の心をざわめかせる。邪魔だと、言い捨てればそれで済むはずなのだが。
「きすけは・・・・いちご、いらない?」
なぜ己の名を知っているのかも気にはなるが、それよりも、先程までひまわりのような笑顔を浮かべていた子供の顔が、泣き顔に歪んでいることに慌てた。
「いえ、いらないというわけ、では・・・」
あるのだ。なのに、この子供にそれをいうのを、躊躇う。きっと、少しでも肯定の言葉を、素振りを見せたら、きっと子供は大きな瞳から、盛大な雫を落とすことだろう。それは、なぜだか、でもどうしても見たくなかった。小さな唇を噛み締めて、うう、と肩を震わせる子供をどうにかしたくて。
「一護さん、とりあえず、そこから出てきません?」
ダンボールにずっといるのも、嫌でしょう?と問い掛ければ、子供は弾かれたように顔をあげ、先程まで浮かべていた泣き顔が嘘のような笑顔を浦原に向けてきた。
「じゃあ、いていいの?!」
「え、」
「いちご、きすけと一緒にいてもいいの?!」
そんな、希望に満ちた、幸せそうな顔で言われると。目尻にまだ涙の欠片が残ったまま、きらきらと、輝くばかりの笑顔の子供を、浦原は可愛いと思う。その子供に、もっと喜んでもらうために、浦原はダンボールから子供を出すべく、小さな体に手を伸ばした。
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