いつもより、体が熱い。火照る体に、霞む思考。指先で触るだけの愛撫を全身に浴びて、一護は蕩けそうだった。制服は中途半端に脱がされて、上着は腕にひっかかっていて上半身を拘束し、ズボンも膝でまとまっている程度。先程から、浦原は一護の唇から離れない。
軽く啄ばみ、浅く吸い付き、時には深く挿し込み。
息が上がる。
それに、唇がひりひりして痛い。
キスのし過ぎで唇が腫れるなんて、それっぽくて何か嫌だ。
互いの唇が塞がっているから、言葉なんて交わせるわけもなく。
無言で相手の体に触れる。上手く動かない指で、男の黒い上着を肩から落とす。ずっと押し倒されているのも悔しいから、肘で体を起こし、向かい合わせの格好に持っていく。その間も唇は離れようとせず、どちらのものかわからない唾液が顎を伝う。
浦原の首に指を添え、覆い被さるように上から口付けを与えていく。その合間にも、男の手は器用に一護の制服を全て脱がし、ゆるゆると胸をなぞる。
さっきから、鳥肌が立ったままの自分の体は過敏に浦原の愛撫に反応した。
仕返しとばかりに、作務衣の前あわせから手を差し入れ、胸を抓ってやった。
流石に痛かったのか、ようやっと、唇が離れ、一息つく。
「痛い」
非難を込めて口調で優しく体に触れてくるのだから、この男は侮れない。
ふん、と鼻で笑ってやって、唾液で濡れた男の上唇を噛んでやった。
あっあっあっ、と断続的に漏れる喘ぎに、自分が男に抱かれて、感じているのだと教えれているようで。
口を閉じることができないほど、弛緩しきった体に、男が喰らいつく。
喉に胸に腕に腰に足に唇に。
赤い花が散った体は規則的に揺すられて、揺す振られてもう自分がどんな形だったかを忘れさせるくらいに火照り。溶ける、と思わず口走ると、ドロドロだと、浦原は苦しそうに言った。
いつもよりも気持がよくて、良すぎて苦しい。
何度精を放っても、物足りないと、男が欲しいと訴える体に、一護は素直に従った。
男を上から見下ろす格好で、随分な事もした。断片的な記憶で脳内に焼き付く快感に翻弄され、正直今自分が何をしているのかなんてどうでもよかった。ただ、浦原の体温を、熱を、呼吸を、鼓動を感じたかった。追いついてこない羞恥。とうに切れた理性の糸。
どうにでも、なれ。
真っ白い世界が瞼の裏に広がり、一護はゆっくりと目をあけた。重い瞼に苦労しながら薄く目を開けると、畳の目が見えた。ああ、浦原ん家か。再び襲ってきた眠気に身を任せ、降りてくる瞼に逆らわずに目を閉じてから、きっかり10秒。
「!!!!」
跳ね起きた一護は悲鳴を上げる体に耐え切れず、また布団に沈んだ。とりあえず、シーツを握ってみる。襲い掛かる羞恥に、噴出す汗に、熱を持ち始める体に、ぎしぎしと筋肉痛にも似た体の痛みが。昨夜の己の行動を思い出して、ぐるぐると混乱する頭を宥めすかしていると、からりと襖が開いて浦原が姿を現した。呆然とこちらを見詰めてくる一護に、浦原は堪らず口元に笑みを浮かべた。
「・・・・・・・・・・あー・・・忘れろ。忘れてくれ・・・」
あううと、呻き声を発しながら顔を手で覆う少年の縋るような懇願に、浦原は軽く笑い声を上げながら、だーめと答えた。
ちくしょーなんだってんだもとはと言えばてめえのせいじゃねえかよちくしょうなんでおれここにいんだよもう嫌だ
一息で浦原に対して愚痴を溢す一護に、浦原はあははと耐え切れずに笑い出す。そんな男の様子にさらに機嫌を悪くする一護を宥めるため、浦原はテッサイが作っておいてくれた洋菓子を差し出した。昨日の夕方から何も食べていない子供の腹は素直に空腹を訴え、文句をたれていた一護はすぐさま菓子に手を伸ばした。
がつがつと味わっているのかわからぬ勢いで菓子を口の中に放り込む一護の姿は正しく飢えた子供。これだけじゃあ足りないだろうと、テッサイが今ご飯を作っている事をのべれば、やったと歓声をあげる。
「黒崎さんいくら育ち盛りでも、食べすぎじゃないですか?」
少年の食事事情を思い起こしてみて、ちょっと量が多すぎやしないかと腹の心配をする浦原に、一護はきっと目を吊り上げて、少し目尻を赤く染めながら噛みついてきた。
「てめえのせいじゃねえか!」
「へ?アタシ?」
「アレ、へたに運動するよりすっげえ疲れるんだよ!」
だから腹も減るの!とやけくそ気味に言い放ち、すぐ恥ずかしそうに目線を反らす一護に、うわあと浦原は悲鳴を上げた。どうしようこの子可愛い触りたい抱きしめたい
まあ、確かに少年の若い性を楽しむようにここ最近頻繁に事に及んでいることを考えると、飢えた子供のカロリー消費は結構なものかもしれない。うーん、だからこんだけ食べてもあんまり柔らかく・・肉がつかないのかあ、と菓子を飲み込む喉の動きから鎖骨、ついでに腰まで目元で辿る。視線に気がついたのか、急いで着替えはじめる少年に、ああ、勿体無いとしょうもないことを思う。
「うし!飯!」
「・・・食欲には随分従順ですねえ・・」
性欲関係には我慢強いのに。
「なんか言ったか?」
「いーえ、何もー」
ほらほらと急かす子供の後をついて部屋を出て、襖を後ろ手で閉めた。
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