凝固した血に。
開かれることのない瞳に。
温かさなどない体に。
恐怖、した。
跳ね起きたせいで、体の上にかかっていたケットがベッドの上から落ちた。
荒い呼吸を宥めて、ぐっしょりかいた汗を冷まして、小さくなるように体を丸めた。
怖い、悲しい、寂しい、苦しい・・・恋しい。
ぎゅっと、手が白くなるほど握りこむ。
世界から隔離するように、もう誰が死ぬのも見ないように、取り残された子供のように。
自分の弱さが嫌いだった。弱さなんて欲しくなかった。
弱ささえなければ、母を失わずにすんだかもしれない、こうして、人恋寂しい気持になる事もないのに。
どうして、強さだけを与えてくれなかったんだろう。
からりと、窓の開く音。
鍵は閉めたはずなのに、あの男には関係ない。
「こんばんは」
夜に、似合った声だと思う。
静かに、染み込むように耳に届く、低い声。
ふっと、力を入れすぎていた手から力が抜ける。
「こんばんは、黒崎さん」
さっきよりも、近くから聞こえる声に、ゆるゆると、膝に埋めた頭を上げた。
思ったより、近くに男の顔があったけど、心は静かに目の前の男を見詰めていた。
目深にかぶった帽子のせいで、男の表情は伺えないけれど、口元の柔らかな曲線に、ほっと、息を吐く。
「浦、原。」
「はいな」
呼べば、直ぐに返事が返ってくる。
手を伸ばせば、すぐに手が握り返してくる。
目を、見詰めれば暖かな唇が降ってくる。
「強ければいいのに」
囁くように、呟けばあやすように額に唇が触れる。
「強いだけじゃあ、先には進めない。」
瞼にも、唇が触れる。
「振り返ることも、横を見ることも、前さえ、見えなくなります。」
「アナタがこれ以上強くなったら、アタシは」
頬に触れた唇が、一護のそれに重なった。
続きは聞けなかったし、きっと、浦原も言う気はない。
自分の弱さは嫌いだ。だけど、男の弱さは、少し好ましく思う。
変なの。
自分も、浦原も。
変なの。
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