5、固まった血
凝固した血に。
開かれることのない瞳に。
温かさなどない体に。

恐怖、した。




跳ね起きたせいで、体の上にかかっていたケットがベッドの上から落ちた。
荒い呼吸を宥めて、ぐっしょりかいた汗を冷まして、小さくなるように体を丸めた。
怖い、悲しい、寂しい、苦しい・・・恋しい。
ぎゅっと、手が白くなるほど握りこむ。
世界から隔離するように、もう誰が死ぬのも見ないように、取り残された子供のように。
自分の弱さが嫌いだった。弱さなんて欲しくなかった。
弱ささえなければ、母を失わずにすんだかもしれない、こうして、人恋寂しい気持になる事もないのに。
どうして、強さだけを与えてくれなかったんだろう。









からりと、窓の開く音。
鍵は閉めたはずなのに、あの男には関係ない。

「こんばんは」

夜に、似合った声だと思う。
静かに、染み込むように耳に届く、低い声。
ふっと、力を入れすぎていた手から力が抜ける。

「こんばんは、黒崎さん」

さっきよりも、近くから聞こえる声に、ゆるゆると、膝に埋めた頭を上げた。
思ったより、近くに男の顔があったけど、心は静かに目の前の男を見詰めていた。
目深にかぶった帽子のせいで、男の表情は伺えないけれど、口元の柔らかな曲線に、ほっと、息を吐く。

「浦、原。」

「はいな」

呼べば、直ぐに返事が返ってくる。
手を伸ばせば、すぐに手が握り返してくる。
目を、見詰めれば暖かな唇が降ってくる。

「強ければいいのに」

囁くように、呟けばあやすように額に唇が触れる。

「強いだけじゃあ、先には進めない。」

瞼にも、唇が触れる。

「振り返ることも、横を見ることも、前さえ、見えなくなります。」

「アナタがこれ以上強くなったら、アタシは」

頬に触れた唇が、一護のそれに重なった。
続きは聞けなかったし、きっと、浦原も言う気はない。
自分の弱さは嫌いだ。だけど、男の弱さは、少し好ましく思う。
変なの。
自分も、浦原も。
変なの。






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