縋った指
年が明け、そろそろ正月気分も抜けてきたという頃に、君が来た。少し背が伸びて、男らしくなった顔つきで、気まずそうに、よぉ、なんて挨拶してきて。あの頃君に感じてた子供らしさを、今の君に捜してみるけれど、伏せた瞼に落ち着きを見つけてしまった。
「お久しぶりですねぇ、何年ぶりですか」
別に君を非難しているわけじゃない。ただ、純粋に何年君と会っていなかったのか知りたかった。君はつらそうな顔をして、四年と俯いて呟いた。
四年。
君が、さようならと告げてきてから四年の歳月が流れたか。まだ学生だった君は今より背が少し低くて、背にばかり栄養がいってしまったように細かった。眉間に寄せられた皺は今も変わらないけど、顎がシャープになった。それだけで、大分印象が変わる。
少年の彼は、どこにもいない。
「今は何を?」
「や、ふつーに…就職する」
「お仕事は何を?」
意識せずに飛び出す質問に、君は怒ったり、問い詰めたりはしてこない。以前の君だったら、なんだよ、とか、うるせぇ、とか。何かと言えば反論の言葉ばかり。刺々しさの抜けた君。
もう、四年も経った。
「浦原さんは?」
「はい?」
「浦原さんは、その…なんかあったか?」
い〜え、何の変わりもありませんよ。相変わらず虚は現れるしジン太はウルルをいじめるし。ああ、テッサイが君の妹さんとよく一緒に料理を作ってくれます。ジン太がそわそわして楽しいんですよ。どうです?久し振りにテッサイの料理でも。
「君と別れました。それからどうにも良くない。君が来なくなったから暇な時間が増えた。口寂しくて煙草の量が増えました。7月15日に君がいない。花火を見る度に君の笑顔を思い出す。アタシの誕生日に君が来てくれない。今日は、泣きながらいなくなった君を思い出す」
頭を占めるのは君ばかりだとつらつらと出る言葉に浦原自身驚く。これでは一護を非難しているようではないか。一護が浦原から去ったのは至極当たり前の事だ。一護に非があったのではない。一護はただの被害者だ。死人に弄ばれた、人間だ。
「…ご」
「謝らないで。それはこちらの台詞だ」
君を愛してやれなかったアタシの言葉だ。


好きだ、と告げられた。
嫌いではなかった。恋人になることで彼が側にいるのなら。浦原は喜んで一護の言葉を受け入れた。一護が求めれば何でもした。好きだと耳元で囁き優しく抱きしめ。好きだと思ったのだ。自分の言葉に行動に体温に熱情に嬉しそうに笑う君を。好きだと思っていた。愛しているとも。だから言葉にして君を縛り付けた。
好きです(だから好きでいて)
愛してます(だから傍にいて)
降り積もる言葉に潜んだ意味に、耐えられなくて離れようとした君を、必死で引き止めようとした。愛しているのに。紡がれた愛を、嘘だと振り払った君の顔が涙で濡れて。君に縋ったその指が、涙の冷たさに耐えられずに離れた時。君との仲は終わったのだと、君の姿が見えなくなってから気がついた。

「悪いのは、アタシだから」
違う、と泣きそうに歪んだ顔が、過去の一護と重なる。君には、そんな顔をさせてばかりいる。
「いい年して、駄目な大人ですね、アタシ」
立ち上がれば、あの時より近づいた顔。キスしたいなんて、未だに思ってる自分に呆れた笑みが浮かぶ。
「…そんな事、わかってる」
「だったら、」
「それでも…あんたがそうだから…俺は、あんたが」
好きだったんだと、俯いた顔のせいで籠もって聞こえた告白に、活動を止めたとばかり思っていた鼓動が跳ねる。
「昔の男に、期待を持たせるような事は言わないでくださいよ」
「…期待持てよ、つけ込めよ、昔の男に会いにきたんだ、察しろよ…!」
四年。四年だ。その間ずっとあんたを忘れられずに、ずるずる思い続けて。
昔と変わらない、鮮やかなオレンジの髪の柔らかさを思い出す。そして、真っ直ぐ前を見詰めていた君が、アタシの前でよく俯いていた姿も。胸に凭れかかる君の重さに靡けば、しっとりとした肌に唇を寄せれば、君の先を手に入れる事ができる。けれど、君の先が無くなる。そんな事は、背に回された指の震えで消え去った。
顎を掴んで引き寄せて、見開いた瞳に割り込むように唇を合わせた。













戻る