蝶に囚われ2 |
注*この話には性的表現が含まれています。
昼間、気分転換で出かけた先でその少年と出会った。
花街、とも呼ばれるその場所に、ふらりと立ち寄り偶にはこうした女と寝るのも一興かとも思ったが、昼間に廓をうろつくのは給料の安い席官にすらなれない死神か、金のない荒くれ者たちばかり。昼見世に出る女たちも皆どこか気だるそうで。すぐに興味を無くし、踵を返そうとした、その時。
浦原が歩くすぐ傍の店から、男が一人飛んできた。
別に大袈裟に言っているわけでなく、本当に飛んできたのだ。道の真ん中に派手に落ちた男は苦痛の声を上げ、店から出てきた一人の少年を睨みつけていた。
ぱっと、そこに花が咲いたようだと思った。夏に見る、向日葵の花のような大輪。
それは少年の珍しい髪の色が見せた幻覚だったのかもしれないが、少年から微かに昇る霊気を帯びた闘気が幻なんかではないと。用心棒として雇われた少年だろうか。中々の見目だが、如何せん粗野な雰囲気が少年をこの街の住人達との間に一線を引いていた。野次馬たちが集まりはじめ、浦原は目立つことのないよう、後ろからのんびりとその光景を眺めた。道に転がっている男は屈強な男たちに連れられ大門の外へと連れていかれたが、浦原はそんなことよりも青年に足を踏み出したばかりの少年に目を向ける。眉間に寄った皺が怒っているようにも見える。けれど、その皺を消すことなく少年は小さな禿に笑って見せ。
この街に、どこまでも似つかわしくないな、と思った。思っていた。
しかし、夜に訪れた街で浦原は花を売る少年に出会った。昼間の、あの夏の太陽を思わせた少年は、月の光の元、ひっそりと佇み提灯の、ほのかな灯りに誘い込むように浦原の袖を引いた。
昼間、見ていたでしょう?と、娼の笑みで、浦原を誘った。
布団の上に押し倒され、腰を跨がれる。互いの性器が擦れあい、ぬるりとした精液が絡みあう。指を口に含み、存分に湿らせると少年は自らの指を後ろに宛がい、浦原に見せ付けるように後孔を広げてみせた。
勃ち上がった少年の性器から溢れ出た精液が、後孔を濡らし、指の動きを助ける。ぐちゅ、と水音を立てて飲み込まれる細い指。最初は指先を出し入れし、徐々に大胆に指を埋め込んでいく。付け根まで飲み込んだ後孔が、指が引き抜かれる度にひくりひくりと誘うように動き、そこから溢れ出る少年の精液が浦原の欲を濡らしていく。ふわりと香るのは、甘い花の香り。香りの元は恐らくこの。
少年の太股を撫でていた手を上げ、頭の芯を蕩かすような芳香を放つ元へと、指を絡めた。くちゅ、と手に絡んだ白い液から一層強く、その匂い。
このような場所で働く者達の中には、自らの体に催淫効果をもたらす薬を服用している者がいるとは聞いていたが。そういった薬を、局で作ったことはある。しかし、こういった使われ方をしていたのかと、今知る。常なら、そういった薬の成分について思考は占められるはずなのに、目の前の痴態を視界に入れながら、そんなことを考えるのは無理だった。香りだけでない。少年自身の色香に、自分は酔い始めている。
二本に増やされた指は、限界まで後孔に埋められているが、それでも物足りないのか、少年は浦原の手を取り、そっと指を絡ませてきた。懇願するような、縋るような瞳で見詰められ、無意識に指が少年の後ろをなぞる。ひくつく後孔に飲み込まれた細い指の付け根を撫で、中指を少年の指に沿うように差し込んだ。
つぷり。
呆気なく飲み込まれた己の指を、柔らかな襞が包み込む。奥へ、奥へと動く襞に誘われ、ずぶずぶと指を押し込めば。
「は、あ、あ、・・・・・・っ!あん・・・・」
がくりと、少年の上体が倒れ込み肩に重みを感じる。跳ねた柔らかな髪が、くすぐったいが、心地よい。
匂いが、きつくなる。
少年の指は既に後孔から引き抜かれ、浦原の背中に回されていた。髪を掴み、頭に縋り。熱い吐息を漏らして髪を梳く。項を指先が辿り、肩に爪を立て。腰が動き、もっと、もっとと浦原の指を飲み込んでゆく。中の襞を味わうように、指を回し内を探る。
「あっ!」
爪で、ある一点をひっかくと、じとりと汗をかいた肢体が大きく跳ねた。ここか、と掠めるように、その一点を引っかく。
回りをゆるゆると刺激し、直接的な刺激は与えず。肩に回された手が必死で浦原にしがみついてくる。荒い息遣いを耳に直接感じ、少年が感じているのだと、笑みが浮かぶ。震える太股を撫で、尻に手を回す。ぐ、っと力をこめて開くようにすれば。指を締め付けるような襞の収縮。二本、三本増やしていけば堪えられないとばかりに少年の膝から力がなくなり、腰が下がってくる。高められ、放置されたままの浦原自身も限界に近かった。よく堪えられたものだと、自分を褒めてやりたいほど、浦原の欲は体の中を渦巻き、頭を焦がすほどにまで高まっていた。
指を引き抜き、後孔に昂ぶった欲を押し当てるが、その手を少年が取る。快楽に染まる顔が笑みを浮かべ、唇を舐めた。怒張したそれに手を添え、ゆっくりと腰を下ろし飲み込んでいく。見せ付けるような、その仕草に脳が揺れる。柔らかく解れた場所は浦原をじわりじわりと飲み込み、視線があうときゅうと締め付けられた。弾けそうになる快感が苦痛になる前に、少年の体は浦原を全て飲み込んだ。
口内とは違った熱さに、知らず知らず溜息が漏れる。
心地よいが、物足りぬと腰が動く。
「あ、・・・ん、ん・・・」
少年が、ゆっくり、ゆっくりと回すように腰を使い、欲を絞るように上げ、包み込むように下げ。互いの先走りが下肢を濡らし、少年の下生えをもっと濃い色にし。襞に擦られる度に、じゅ、と引くような水音がたつ。下から突き上げれば、少年は素直に嬌声をあげ、もっと、と強請るように腰が波打つ。柔らかな少年の尻がその度に当たる。
他人と肌を合わせるという行為が、こうも快感を生み出すものなのかと、今更ながらに知ったような。そんな心地に襲われ、惚けたように少年の為すままにしていると瞼に、額に、鼻頭に唇が触れた。
勘違い、しそうになる。
まるでこれは―――好いた者同士の情交なのだと。
少年に、愛されているのだと。
一際高く、感極まったように少年が声をあげ、腹に温かな欲が散った。眩暈を起こすほどの香りと、締め付けに耐え切れず、浦原も少年の内に欲を吐き出した。痙攣を繰りかえす細い腰を掴み、何度か揺すり上げ、全て吐き出す。心地よい、倦怠感。余韻に浸るように、胸に倒れてきた少年の肢体を抱きしめ、色付く首に、肩に口付けた。
暫く、互いに荒い息を整え、繋がったままの体勢でいたが、少年が浦原の鎖骨に吸い付くような動きをし始める。
「・・・・?何、を・・」
しているのか、と問う前に、唇を塞がれた。口付けは精液の生臭さが混じったもので、思わず眉をよせるが、少年の次の行動にその不快さも飛んだ。
先程と同じように腰を使い始めた少年は、苦しそうに眉間に皺を寄せながら誘うように微笑んでいた。腰の動きに連動して、やわやわと、力を無くした浦原の性器を襞が包み込む。唾液が溢れるような口付けの合間、少年は再び浦原の上で喘ぎ、貪り喰うように快楽を追い求めていた。
「・・抜、かない・・・で・・・・」
嬌声をあげ続けたせいで少年の声は掠れ、体が密着するように耳を近づけなければ聞こえぬほど力のないものになっていた。ぐったりと、力の抜けた少年の内に、まだ熱を埋めたまま、浦原は疲労の溜息を吐いた。消えそうな懇願は、既に行為を苦痛と感じているだろう少年の体では無理な事だ。
ずっと、繋がっていた。
何度精を放ったか。唇が触れ合っていない時間のほうが短いのでは、と思うほど求めあった。途中から、余裕がなくなったのか少年の口調が娼のものではなくなり、それが浦原を煽る。
「ぬ・・くなよぉ・・っ」
少年らしい物言いだけど、少年に似つかわしくない、色を含んだ声。
「・・・も、無理でしょう?・・・ヤりすぎだ・・」
もう出るものも出ないだろうと、少年の小さな尻に手を添え、ぐ、っと自身を抜く。どちらの精液かわからぬほどに濡れた下肢に、ぐちゃぐちゃに汚れた布団が行為の激しさを物語る。いやいやと首を振りながら、抜かれる感覚に鳥肌を立てた少年は、涙の流しすぎで蕩けそうな瞳を伏せ、力なくある浦原の性器を両手で掴む。
「・・・・勃たねぇ・・・・」
くちくちといつ吐き出したのかわからない精液が少年の手に、浦原のものに絡みつく。
「・・・・っ!」
細い指に揉まれるのは気持がよかったが、勃ちあがるような快感はなかなか浮上せず。手では無理とわかると少年は躊躇いもなく浦原の性器を口に含んだ。ぬるりと這う舌の感触に背筋を駆け上がるものがある。まだ欲情できるのかと苦笑するが、腰に回された指が下がり、後ろを刺激する動きに思わず少年の頭を掴んだ。
「・・・・キミっ・・」
「一護」
キミじゃない、一護だ。
疲労の色が濃い顔で、目だけが力強く浦原を睨みつけた。
一体、今日だけで何度この少年の姿に表情に心を奪われたか。
「くっ・・・、はあ・・・」
口で前を刺激され、後ろに回された指が入り込んでくる感触に鳥肌がたつ。不快感が襲う。しかし、少年の細い指がある一点をつくと、面白いくらい呆気なく自分の欲が膨れ上がった。前と、後ろを弄られ息が荒くなる。達しそうになる欲を堪えるのに、眉間に皺が寄る。
指が内で折れ、快楽を引き出すようなその動きに腰が浮く。
「一護・・・」
必死に、男の性器を口一杯に頬張り、口の端から唾液と精液を垂らすその姿に、滅茶苦茶にしたい衝動と、愛しい思いが募る。熱く息を吐き出し、そっと、一護の口から自身を引きずり出した。かは、と小さな咳をする一護を抱え上げ、胡坐を掻いた膝の上に乗せる。浦原の為すがままに体勢をかえ、当たり前のように腕を後ろに回す。頬を擦り付けて、耳の形をなぞるように唇が辿る感触に笑みが零れた。
ずく、と肉が進む感触に一護の上半身が大きく跳ねた。先程まで自分の欲が埋まっていた箇所は柔らかく綻び、容易に浦原を飲み込んだ。何度、一護の身の内に己の白濁とした欲を吐き出したか。擦れあい、混ざり合い、蕩けあったか。必死でしがみつく体を体液で、行為で乱れた布団へと押し付け、休む事なく腰を打ちつけた。一護が、自分だけを見ればいいと思った。この行為に、自分への思いがあると、願う。
蝶に恋焦がれた。
この指に止まることなく、ひらりひらりと眼前を舞う蝶に。
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