蝶に囚われ1 |
注*この話には性的表現が含まれています。
如何様にも、と少年は言った。
化粧をしている形跡はないが、白い、透き通るような肌に、僅かに赤みのさした頬。形のよい唇はサクラ色。昼間見た眉間の皺など存在しなかったように、形の良い眉に、思わず口付けたくなる額。女物の着物を着込み、男に酌をし、艶やかに舞い、床へと導く。少年のあまりの変わり様に、浦原は我が目を疑う。
昼間出会った少年は、いたって普通の少年だった。
髪の色以外、特に目立つ外見でもなく、いたって、普通な。
それがどうだ。目の前で、艶やかに、鮮やかに、見事な舞を披露している少年の艶かしさは。こくりと、たまらずに唾を飲み込む。そんな浦原に少年は妖艶に微笑み、着物の裾を大きく開き、白い太股を露にして手を引く。柔らかな頬の感触。その上に少年の手が重なり。親指でふっくらとした唇をなぞると、はあ、と熱い吐息。
背筋を駆け抜けたのは、間違いなく快感だった。淡白だと思っていた自分の、そんな反応に驚きつつ、目の前の少年の媚態に惹かれていった。
指先を、唇ではさまれ、ちろりと覗いた舌先が浦原の指を口内へと誘った。くちゅりと濡れた音。伏せた睫が光にあたり、色素の薄い少年の瞳が見えた。懸命に指を舐め、時折、うっとりとした様子で浦原と目を合わせる。この子は。昼間あった少年の姿が浮かび、今の娼と入れ替わる。唇を窄ませて指を咥えている少年の体が進み、浦原の膝の上へ。着物の裾がさらに大きく開かれ。直接あたる肌の感触に、下腹部に熱が溜まる。
ん、と漏れる少年の声と、ぴちゃぴちゃと指を舐める水音だけが大きく耳に響く。
「・・・・・・旦那さま。」
甘く、囁く呼びかけ。まるでそうすることがあたりませのように腰に回した手で少年の細い体を撫でた。撫で回すように体の線をなぞれば、時折ぴくんと跳ねる細い体。そこか、といくつかの場所を重点的に突けば。
「あん・・・」
隠しもしない、愉悦の声。強烈な怒りに襲われ、浦原は少年の剥き出しの太股を掴んだ。手に吸い付く、柔らかな感触にくらりとする。この媚態を醜いと思った。作り事の情事。けれど、少年の快感に喘ぐ顔に、声に。どうしようもなく惹かれ、興奮する。少年が自分を”客”として見ていることも、自分がただの娼に心を捕られた事も、制御できない怒りが包んだ。痛い、と訴える目に吸い寄せられるように、唇を合わせた。ふ、と吐息を溢しならが薄く開いた唇が浦原の上唇を食む。差し出された舌先がちろり、と唇を舐める。その舌に絡ませるように己の舌を突き出せば顔を押し付けるような口付けを仕掛けられた。
「・・・・っふ・・・・」
舌に歯を立てられた。ぴり、と痛みが走る。誘うように口を、足を開きながら駄目とばかりに拒否を示す。これが少年の手管かと冷静に考える自分が、その手管にのって露になった太股をなぞり、着物の裾に手を入る自分を見つめていた。どこか、回路が焼ききれてしまったように。危険だと、誘いに乗るなという常の自分の命令が体に、脳に伝わらない。下着を着けていない下肢に手を忍ばせ、半勃ちの性器を露にさせた。赤い着物が少年の白い肌によく映える。
先走りが指に絡みつき、くちゃ、と淫靡な音が浦原の欲を刺激した。若い性は浦原の掌に全て収まり、握るように愛撫すれば少年は満足そうに息を吐いた。どくり、と下半身に集まる熱が、浦原の脳までを支配する。
指先で袋をやわやわと触り、指の輪で竿を根元から、先端へ。ふるりと震える体を、このまま抱き潰したいと思う。しかし、少年は好き勝手動く浦原の手を取り、中指をの先を口に含んでちゅ、と音を立てて口付けた。
目元が赤いのは、朱を塗っているのからか。顎の下に手をいれ、頬全体を包むように添えられる指が浦原の顔を少年の瞳へと向けさせる。濡れた琥珀の瞳が、欲の色に染まる様を見せ付けられた。きらりと行灯の光が少年の瞳に反射して、浦原を射抜く。首筋を撫で、愛しむように視線が体を辿る。胸元から差し込まれた手が、遊ぶかのように動き、浦原の着物を脱がしていく。
外気に触れた肌があわ立つのを楽しそうに見遣り、少年は露になった浦原の胸元に顔を寄せた。
「くっ、」
かり、と齧るように胸の頂きを噛まれ、たまらずに漏れた声に、少年は嬉しそうに微笑んだ。
「旦那さま、こうされるのは・・・お嫌・・・?」
わかっているくせに、赤い舌で舐めながら、そんなことを問うてくる少年は自らの襟を広げた。浮き出た鎖骨を視線で触り、赤い胸の飾りに眩暈がしそうで。
勃ち上がった性器が、浦原の太股に当たる。熱い息が胸を擽り、艶かしい舌の動きが視覚を占める。美しい生き物が、浦原という獲物の味を確かめている姿に、ごくりと喉がなった。
足の間に顔を埋め、ぴちゃり、ぴちゃりと猫のように勃ちあがった性器を舐める少年の着物は既に帯で留まっているだけ。咥え込んだ頭の動きにあわせて、高く上げた白い尻が動く。視覚でこうも興奮できるのかと、少年の鮮やかな髪を梳きながら感心する。
「ん、・・・はぁ、」
先端を咥え込んでいた少年が、苦しそうに口を離す。口内の熱さと唇の柔らかさが無くなり、思わず少年の頭を己の股間へと押し付けるように掴んだ。しかし、少年は軽く唇を這わすだけで、口には咥えず。そのまま竿を辿り袋を食んだ。たまらず、うめくように息を吐き出した。
浦原の前に這い蹲るような格好で見上げてきた少年は、天に向かってそそり立つ浦原の欲をうっとりと見詰め、愛しいとばかりに口付ける。微かな刺激だが、少年の媚態に翻弄されている浦原にとって、それさえも大きな快感となる。眉間に皺を寄せ、欲の波をやり過ごす。口の端から垂れる精液と唾液を手の甲で拭い取り、少年は上体を起こし浦原の耳元で囁いた。
「口と、後ろ。どちらがよろしいですか・・・?」
精を放つ場所は、どこがいい?
如何様にも、と少年は美しく、妖艶に微笑んだ。籠に囲われた蝶に囚われた男の末路に、何があるというか。そんなことは、頭から吹き飛んでいた。
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