*このお話はオフ本「それだけの話」の没原稿です。
*なんとなく勿体なかったので載せてみました。
*本を買ってくださった方へのお礼…になるかはわかりませんが…(汗)
「一護サン、自己紹介しましょうか」
唐突に切り出された内容に頷く間もなく、浦原はにこにこと自分のことについて語り始めた。名前は喜助。歳は秘密。空座町で一人暮らし。もちろん独身。
「え、え、ちょ、え?」
「ちなみに彼女もイマセン。気になってる子はオレンジ頭のクロサキイチゴくん。できれば付き合いたいと思ってマス。っていうか、付き合いたいんですが」
ぺたりと座り込んだ一護にあわせて、浦原も身を低くし、ハイ、オシマイと頬に添えていた手を外した。
それってつまりは。
じゃあ、そろそろ行かなくちゃ、と一護の返事を聞く前に浦原が立ち上がる。何も言えずに、何も言わないまま別れるのは嫌で、慌てて立ち上がるが出てくる言葉は、ああ、やらうう、やら言葉にならない唸りばかり。飲み込んだ言葉を、言おうと口を開いた。
「そうだ。お金はテーブルの上にありますから。足りなかったら電話ください」
さ、っと血の気が下がった。
何も言えずに立ち尽くす。じゃあねと男が一護の肩に手を置いてすり抜けていくのを振り返ることもできなかった。重い音を立てて閉められたドア。のろのろとテーブルに近寄れば、バイト料の何倍もの金額。一枚、二枚と枚数を数えて、これなら十分足りる、と認識したところで一護はその紙幣を掴んで床に投げ捨てた。何に対する怒りだろうか。
借金を取り立てにきた男たちか。自分にこのバイトを紹介してきた男か。信じられないくらい気持よく抱いた男か。その男に惚れた自分か。荒い息を落ち着かせ、床に散らばった紙幣を拾い上げる。これを手に入れる為に自分はここに来た。これが欲しいから、浦原に抱かれた。
「何落ち込んでんだ、俺…」
拾い集めた紙幣を鞄に詰め込み、着替えはじめた時、消音にしていた携帯が震えた。テーブルの上に置いてあった携帯ががたがたと一護を急かし、取って開いた瞬間飛び込んできた名前に目を見張る。画面に表示されていたのは、さっき部屋を出て行った男の名。今度は一体なんだと、半ばやけくそのように通話ボタンを押した。
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