甘い吐息と一緒に



注*この話には性的表現が含まれています。









































別に、アイツの帰りを待っているわけじゃなくて、最近仕事だっつって会えなかったから、とかじゃなくて。
ただ、この部屋に置き忘れてたCDを取りに来て、ついでになんか部屋も汚かったから掃除してやってるだけなんだ。だから、だから、部屋を掃除した後も、洗い物して少しでもこの部屋にいる理由を作ろうなんて、考えてるわけじゃなくて。
「…遅い…」
綺麗に磨かれたシンクを見渡し、ついでに作ってやった晩飯にラップをかけて、何度も何度もチャンネルを変えて、未だに帰ってこない浦原を待つ。
何度も何度も、浦原が帰ってきた時の為に言う台詞を考えてみたけど、なかなか帰ってこない浦原に、自分で驚く程、テンションが下がっているのがわかる。折角。前に、浦原が食べたいって言ってた黒崎家の豆腐ハンバーグを作って待っているのに。
思わず漏れた呟きは、誰もいない部屋に吸い込まれて消えた。音楽番組をなんとなしに見てはいたけれど、一人で恋人の帰りを待つ、みたいな歌が流れてきたから消した。なんで帰ってこないんだという怒りは、会えなかった寂しさに隠れて身を潜め。柄ではないけれど、浦原が一護にと買ってきたふざけたエプロンを着けて料理なんてしてみたのに。
フリルのついたエプロンの端を引っ張り、ちぇ、とぼやいてみても、気が晴れる事はなくて。帰ってこないのなら、こんなものを着けているのは侘し過ぎる。そこにまでフリルのついたエプロンの紐を外そうと、手を後ろに回した時、がちゃり、と鍵の開く音がした。
帰ってきた!思わず漏れた笑みに気がついて、浦原がドアを開ける前になんとか表情を取り繕う。奇妙に力の入った顔は、まるで怒っているようにも見えるが、目元が泣きそうに歪んでいる事に一護は気がつかぬまま、久し振りに会う恋人を出迎える為に玄関へと向かった。











一護の通っている大学に、浦原が昔師事していた教授がいたのが、出会う切っ掛け。
提出したレポートに不備があったとかで呼び出され、教授から説明を受けている所に、浦原が来た。お邪魔します、なんて知り合いの家に上がるみたいに声を掛けて入ってきた男は、誰だと不審な目で振り返った一護を見て、感嘆の声を上げた。
「わあ、派手だね」
それが自分の髪を指しての言葉だと瞬時に理解した一護は、不機嫌な怒りの顔を隠しもせずに、その男を盛大に睨みつけた。随分と、髪の事については何を言われても平然と流すようにはなってはいたが、時折、我慢できずに感情を表に出す事もある。教授の前で、盛大にガンを飛ばし始めた一護に、男はそれはそれは楽しそうに笑った。
それが、初対面での事。










それが一体、どうしてこんな関係になったのだと聞かれたら、どうしてなのかと一護自身問い返したい。今ではもう、浦原が好きだと思ってる事は確かだし、恋人だと、言える関係なのも確かで。ドアを開けて、疲れた様子で帰ってきた浦原を見るだけで、少し動悸が早くなるのは勘弁してもらいたいけれど、素直に嬉しいと思う。
「お帰り」
頬に集まりそうになる熱を必死で分散させながら、素っ気ない口調に聞こえるよう、静かに浦原を出迎えた。視線を下げていた浦原は、突然掛けられた声に驚き、視線を上げた先に一護がいるのを確認すると、顔を綻ばせた。疲れたような目元には隈が浮かび、前に会った時より、頬がこけている気がする。無精髭、というには伸びすぎている髭が野性的で、どくりと熱が上昇するのがわかった。
「ただいま。なんだ、来てたんならメールくれればいいのに…」
「や、すぐ帰ろうと思ってたし…」
「こんな時間に?」
浦原に聞かれたら、すぐに答えられるように考えていた言い訳なんか全部吹っ飛んで、咄嗟に出てきた言葉の苦しさに、くそ、と舌打が漏れた。
にやにやと人の悪い笑みを浮かべて、段差のある玄関口から一護を見上げてくる浦原に、いいから早く入れ、と背を向けた瞬間、背中に温もり。一護の前に骨ばった、長い指が組まれる。肩に乗せられた頭の重さが、久し振りで、思わずその体勢を許してしまった。後ろから抱きしめられて、その体温になんというか、胸を締め付けられてる自分に溜息が出る。
恋をしてるんだと、まず身体から言われているように感じられて、どうにも恥ずかしい。
「一護さーん…あー…一護さんの匂い…」
首元に押し付けれる髪が、ぱさぱさと乾いた音を立てる。大きな犬に抱きつかれてるみたいだと、表情を緩めた瞬間、腰を押し付けてくる浦原の動きに硬直した。
「な!ちょ…!浦原!おまっ、何…!?」
「だあってー、生の一護さん久し振りだから…」
身体が勝手に。そう囁いて、ぐいぐいと押し付けられる身体に、かっと体温が上がる。なんとか浦原の腕から逃れようともがくが、身体全体で押さえつけられては、体格差のある一護には無理だった。シャツの裾から忍び込んで来た冷たい手の感触に鳥肌を立て、なんとかこの場を逃れようと言葉を探す。
「飯!飯作ってあるから!まず食え!で、風呂入れ!」
「えー…折角一護さんがエプロン姿で出迎えてくれたのにー…」
そういえば、フリルのついたエプロンを着けたままだった事を思い出し、さらに居た堪れない気持ちになった一護を名残惜しそうに撫でながら、浦原は身体を引いた。急いで浦原から距離を取り、キッチンへと逃げ込む。
「とりあえず、飯暖めるから…」
急激に上げられた体温に、呆けそうになる頭を振り、スープの入った鍋に火を点けた。ラップをかけておいたハンバーグも温め直そうと、冷蔵庫に伸ばした手を、いつのまにか後ろにいた浦原に掴まれた。
「おい…!」
「駄目?」
「だから…、飯…が、」
「お腹も空いてますけど、まず一護さんが食べたい」
「ちょ…火!火、点いてるから…!」
エプロンの下、シャツの裾から入り込んだ手が、先程とは違い、明確な意思を持って一護の肌を辿る。慌てて腕を掴むが、もう一方の手が服の上から股間を鷲掴み、一瞬身体と思考を快楽が占めた。はっは、と漏れる吐息に熱が篭り始める。本気でここでやる気かと、顔だけで振り返り、後ろにいる相手を睨みつけるが、効果は無く。胸を撫でていた手が伸びて、コンロの火が消される。
こいつ、本気だ。
いつものように、一護の熱を丁寧に上げていく緩やかさはなく、股間を揉み込む動きに性急さを感じとる。膝から力が抜けていく。立っていられずに、目の前のシンクの縁を掴む。
「…っ、なんか、早く…、ねぇ…?」
弾む息と連動して、腹筋が跳ねる。胸元までシャツが捲くられ、触られて立ち上がった乳首がエプロンに擦れて痛い。目の前が霞む快感に、意識も、息も追いつかない。
「ごめんね…ちょっと我慢、効かないみたい。…早く一護さんの中に入りたい」
「っ!」
押し付けられた腰から、浦原が既に勃ってる事はわかっていたけれど、こうも性急に、一護の感情が追いつく前に求められるのは始めてで。興奮、しているのがわかる。耳たぶに掛かる吐息に、ぞくりと背中を駆け上がるそれは紛れもない快感で。上がっていく熱に耐え切れないように、視線を伏せると、視界に入るのは白い、フリルのついたエプロン越しに動く、浦原の手。
羞恥に、視界が赤く霞む。視界に飛び込んできた画に、身体が反応する。
「あ、おっきくなった」
ジーンズの釦を外していた浦原の指が、膨れた部分を撫でる。浦原に与えられる言葉と感覚で、更に熱が上がっていく。細身のジーンズを下着ごと下ろされ、前と後ろを弄られて、呼吸の感覚が狭まっていく。くちゅ。ぐち。先走りの液が、浦原の手を濡らし、エプロンに沁みを作る。
「はあ…。な、あ…浦原…」
「なに?」
「エプロン…汚れる、からっ」
脱がしてくれと懇願するが、さらに煽るように前を扱かれ、非難の声は吐息になった。一護からは見えないが、きっと厭らしそうに笑っているだろう事は想像に難くない。
ちくしょうめ、内心で盛大に毒突く。このエプロンを買ってきたのは浦原だ。今のこの状況を逃すような男ではないとわかっていたはずなのに。少し前の、このエプロンを着けようとした自分に馬鹿野郎と言ってやりたい…。臀部を掌で撫で、割れ目に沿って指が降りてくる。ぞくぞくと身体に震えが走る。指が何度か孔の周りを撫で、入ってくる時の痛みを思い出して身構えていると、指が離れていった。
「…?」
快楽に蕩け出した思考で、何だと振り返るが、浦原の顔はそこには無く。ごそごそと下の戸棚を探り始めた浦原を見つけ、一体何をする気だと不審な視線を投げかける。
「あ、あった」
これこれ、と浦原が取り出したのは。
「…どうすんだ?それ…」
「いえね、ちょっと時間短縮を…」
オリーブ油を手にした浦原を呆けた目で見ていたが、油を手に垂らしたのを見て、やっと思考が追いついた。それをどういった用途で使うのか理解したと同時に、ぬるりとした手で尻を鷲掴みにされた。
「おまっ、ちょ…!っぁ、」
ずぶりと入り込んできた指の長さに、いつものような手順をいくつか吹っ飛ばした男の限界を知る。ぬるぬると細い指が出入りする動きに合わせて、性器の先端を指の腹で擦られる。
「あ、あ、…ん、ぁ」
増えていく指が、内で折れ、襞を掻き、ふくりとした部分を擦っていく。一気に上げられた体温と感覚に上半身が前に傾いていく。何度か抜き差ししていた指が抜かれ、息をつく間もなく、浦原が身体を進めてきた。徐々に押し広げられていく感覚。久し振りの結合に、ぎちぎちと引き攣れる痛みが走るが、それよりも、浦原の熱を求めていた自分に気がついた。
「あー…狭い、っスね…それに、熱い…」
「は…っ、熱い、のは…こっ…ち…ぁ、あ!」
腰を掴まれ、容赦なく打ち込まれる熱に、思考が攫われていく。ぐちゅぐちゅと、いつもよりも音が響くのは使われたオリーブ油のせいか。剥き出しの性器が、揺さぶられる度にエプロンと擦れて、更に快感が生まれる。
久し振りの情交。溜まってたのは、俺も同じかと弾けた思考の隅で自覚した。エプロンが汚れると思ったのは一瞬で、ふるりと震える身体に逆らう事無く快楽の証を吐き出す。詰めた呼吸の後、浦原が小さく呻いて一護の内に熱い欲を吐き出した。立ったまま男の欲を受け止めるのは初めてで、内股を垂れていく精液にぞくりと背が震えた。
「一護さん、もうちょっとこのまま…」
幾度か痙攣を繰り返す一護の襞を味わうように、浦原はぐぐと腰を押し付け、一護はいつもより深い感覚に吐息を零した。
「…もーいいだろ…さっさと、」
抜け。そう続くはずだった言葉は、浦原の唇に吸い取られた。舌を絡めとられ、さらには体勢のキツさにくぐもった抗議を上げるが。浦原に止める気は更々無いらしい。未だ繋がったままの場所が、再び熱を取り戻しはじめたのを感じ、慌てて、逃れようと身体を逃がすが、シンクに挟まれそれは叶わず。唾液の糸を引いて、唇が離れたと同時に激しく揺さぶられた。
「っ…!あぁ!」
燻っていた熱が、身体を駆け巡る。またやるのかと後ろを振り返るが、まだまだと目と動きで応えられ、甘い吐息と一緒にもう嫌だと抗議の声を吐き出した。











戻る