突然の強風に、一護は思わず首を竦めた。
温かくなってきたとはいえ、この季節は日が暮れると途端に寒さが舞い戻ってくる。制服の中途半端に開けたチャックを閉めて、風が入ってこないようにする。昨日が初夏のような暑さだった事もあり、同じ感覚で中に半袖のシャツを着て来たのは不味かったか。
夏生まれのせいか、一護は、寒さに弱い。だからといって、暑さに強いというわけでもないが、一護は寒いのは極端に苦手だった。冬になるとカイロは欠かせない。常にカイロを携帯している一護に、友人たちは寒がりにも程があると呆れの言葉を投げかける。そうはいっても、寒いものは、寒いのだ。
浦原商店への寄り道が日常に入ってきた頃のある日。冬の寒い時期、浦原商店に来ると直ぐに炬燵に潜り込んで帰るまで抜け出そうとしない一護に、ジン太と呼ばれる少年が馬鹿にした笑みを向けてきた。
「子供は風の子だろ?外出て遊んで来いよ!つかそこ俺の場所!」
そこで暫く炬燵の場所取り攻防戦が繰り広げられ、結局一護が折れる事で争いは収まる。子供曰く、炬燵は彼の陣地らしい。大人しい少女はそんなジン太に慣れているのか、大人しく隅のほうでストーブに当たっていた。テッサイか、浦原が来ないといつもこうなんだと、常に困った顔を浮かべる少女から教えてもらった。
「なんだそれ、炬燵入れてくんねのか?アイツ?」
俺から言ってやろうかと言うと、ウルルという名の少女は、慣れてるから、平気ですと、恥ずかしそうな笑みで断った。それでいいのか、と思いながらも、これがジン太君とのコミュニケーションですからと言われてしまえば一護には何も言えない。風邪引かないようになと、軽く頭に手を置くと、少女は擽ったそうに身をよじって逃げてしまった。妹と同年代に見えるせいか、一護はウルルを気にかけていた。小さな声で挨拶交わす少女に、以前顔に傷をつけてしまったという負い目もある。けれど、やはりあのぐらいの年代の女の子はついつい妹のように構ってあげてしまうのだ。まあ、いつも最後には逃げられてしまうが。
炬燵を追い出された一護が向かう場所は、店長と呼ばれる男の部屋だ。その部屋に炬燵があるわけでもないのだが、妙に温かい部屋は一護にとってありがたかった。夏の頃とはうって変わって体を寄せてくる一護に、男は可笑しな顔で聞いてきた。
「どうしたんです?積極的になっちゃって。」
「寒いんだから、仕方ないだろ。くっついてればあったかいし。」
流石に、恥ずかしい事をしているという自覚はあるが、男の傍は居心地がよかったし、温かかった。
「アタシ、カイロがわり?」
「ん〜・・・炬燵代わり。」
カイロよりは少し上。笑って言えば、男は拗ねた顔で酷いとぼやいた。ぬくぬくと、ここぞとばかりに抱きついていると、男の手が不埒に動き始める。
「くすぐったいから止めろ。」
「え〜?もっと温かくなる事しませんか?」
温かくなるどころか、暑くなる行為を示唆され、頬に熱が集まるが、寒さに弱い高校生は男の傍から離れない。その事を都合よく受け取った男は、じゃあ早速とばかりに服を脱がしにかかる。慌てて男の腕を掴み、えへ、と少し引きつった笑顔を浮かべ、拒否の姿勢を示すが、男は止めない。
「寒いんでしょう?温かくしてあげますから、手伝ってくださいね。」
にこりと、爽やかに笑顔で言われてしまえば、特に断る理由も見つからない一護は、諦めるしかないのだ。
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