教訓なんて海馬の前では役に立ちませんでした
耳慣れない、しかし聞いたことのある音に空を見上げる。重く、どんよりとした雲が頭上にどっしりと浮かんでいる。視線を少し外せば晴れ間も見える。昨日までの雨雲の名残か、湿った空気が城之内の頬を撫でた。
ばらばらと、断続的に響く音の先は、晴れ間の下を飛んでいる一機のヘリだ。街中へと飛んでいく姿に、思わずKCのロゴを探してしまうのは、まあ仕方ないだろう。
この街で空を飛んでるものといったら、KCが飛ばしている飛行機や飛行船くらいのものだ。時折、ジェット機が見れる事もあると、その筋のマニアは写真で狙っているとも聞いたことがある。
城之内も男だ。車とか飛行機とか、カッコいいものには多少の興味があるが、カードのモンスターキャラであるブルーアイズを模したジェット機については、もう何も言わないようにしている。
目を凝らしてみれば、飛んでいくヘリの側面には近くの飛行場の名前が記されていた。その会社も、KCの系列だというのだから、もう笑うしかない。
ふう、零れた吐息の沈痛さに自分で驚いた。残念がっているように思えて、慌てて咳払いをしてみたが、周りは通行人一人いない閑静な住宅街だ。残るのは気まずさと、虚しさだけだ。
(遊戯は店の手伝いだし、本田も家の用事。獏良はやることがあるって言うし、御伽は仕事。杏はレッスン…)
珍しくバイトの入っていない放課後だというのに、城之内の予定は空白。高校に入ってからは慌しい毎日ばかりを送っていたから、こんなゆっくりと過ごせる日々は貴重なのだ。いつもバイトだなんだと、誘いを断ったり途中で帰ったりと不義理ばかりを繰り返していた。今日こそは、と愉しみに思っていたからこそ、一人でいるのが余計に寂しく思えて仕方ない。
一人でゲーセンに行く気も無いし、大人しく家に帰る気にもなれない。普段の睡眠不足を解消しようかとも思ったが、寝るには昼間の授業中に睡眠を取り過ぎた。
これからどうしたものかと、放課後の時間の過ごし方について考えて歩いたら、気がつけば閑静な住宅街に辿りついていたのだ。見えてきた白く長い塀になんだか悔しい気持ちになる。
このまま塀に沿っていけば、この街で一番でかい屋敷に着く。城之内の通う高校の屋上からでも見える大きさで、昨日も、一昨日も訪れた屋敷だ。そのどちらともバイト帰り。疲れた体を引きずりながらも屋敷を訪れたというのに、屋敷の主は二日間不在だった。それでも、差し出される食事に暖かな人の出迎えは自然、城之内の足を向けさせるに足る理由だろう。





戻る