続・社長、飛ぶ
海馬瀬人と、互いに自己紹介をしたあの夜から、なんとなく夜空を見上げることが多くなった。何度見ても、見慣れない空は幻想的に見えたが、隣に海馬がいる時には妙に懐かしく思えるのだから、奇妙なものだ。話している内容が日本のことばかりだからかもしれない。寡黙な男だとばかり思っていたが、話し出せばその知識量と豊富すぎる語彙に城之内が途中で音を上げるのがいつもの事だった。
「貴様が圧倒的に足りていないだけだ」
呆れた様子を隠しもしない海馬の上からの物言いに反発するのもスタイルになっている。それくらいには、この夜の会合は続いていて。
別に示し合わせたわけでもないのだ。何故か時折、共に夜空を見上げて話す機会が増えた。城之内は買出しの帰りだったり、倉庫内で作業をしているリョウ達と別れた後だったり。海馬は決まって、格納庫で自分の機体の点検が終ってからだった。
滑走路の横に、誰が置いたのかわからないが、キャンプで使うような簡易椅子と机が置いてある。城之内がそこでぼんやりとしている所に海馬が来ることもあれば、逆のこともあった。
建物から零れる灯りと、月明りだけの光源。最初は心臓を萎縮させていた城之内も、何ヶ月も星空の下で語り合っていれば流石に慣れる。が、闇に慣れた状況を思い出す度になんだかくすぐったい気持ちになるのは、相手があの海馬だからだろうか、それとも背景が星の散りばめられた夜空だからだろうか。
(どっちにしたって、こんなこと誰にも言えねえな)
がたがたと、揺れる車内での思考だ。尻が座席に落ち着かないせいか、考えもあちこちに飛びがちになる。目に映る砂埃塗れの荒野。無骨な造りの基地の壁。油塗れのバクラに、メットを外したリョウの姿。そして最近の城之内の思考を占めている紺の夜空に散らばる星屑たち。
買出しまで数時間、しかも舗装されていない道なり。空気に舞う砂埃はじゃりじゃりと口に肌に纏わりつき、肌を突き出す陽射し付きだ。なんて所に来たんだと、嘆いた夜にふらりと外に出て、空を見上げて驚いた。空が降ってくる。思わず腰を引きかけるくらいに、黒い黒い夜空には小さな光りに満ち満ちていた。





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