ハッピーサンセット
一護の恋人は、オタクだ。
一護にはよくわからないのだが、造形オタクと云うらしい。どういう事なんだと聞けば、恋人の部屋にあるようなフィギュアが好きな人たちを指す言葉だと教えてもらった。ふうん、とその時は対して思う処もなく素っ気無い返事を返したものだが、こうして恋人が自分ををほったらかしてフィギュアに夢中になっている様は、正直面白くない。
今日は日曜日で、恋人は休みで一護にはバイトも勿論授業も無い。
こういう関係になって、まだ日が浅いから一日一緒にいれるのは嬉しいし、楽しみにしていたというのに、恋人は――浦原はさっき宅配便で届いたモノに夢中でこちらを振り返ってさえくれない。そんなになってまで楽しいものなのかと、後ろから覗いてみてもただの玩具のようにしか見えないから、さらに一護は面白くない。
敷かれたままの布団に横になって、ぼんやり雑誌を眺める。暫くページを捲くっていくと、浦原に似合いそうな服があった。後で見せようと、そのページの端を折る。
最近一護と一緒に買い物に行くようになったからか、ようやっと自分の服装に意識が向いてきた浦原と同じ雑誌を見たりするのを結構楽しく思っているのだが、何より浦原の興味は『ロボット』のようだ。ちらり、何か作業をしている浦原の背中を見る。
猫背がもう癖になっているから、上背がある癖に小さく丸まっているその姿はちょっと面白い。雑誌を読むのに飽きてきたから、今度は浦原を観察する。自分よりも大きな背中に、後ろに一つに括られたぼさぼさの髪に、時折呟かれる独り言。
ずり、と体を引き摺りながら浦原に近づく。浦原は夢中になっているのか、近づく一護に気づく様子はない。
よ、っと体を起こして、丸められた背中にのしりと押しかかった。
「っひゃあ!」
びくりと震えた体を逃がさないように、首に腕を捲きつけて、肩に顎をのせる形で浦原に後ろから抱きついた。あまり、こうした接触をしないから、胸に腹に伝わる熱にどきどきする。がちがちに固まった浦原に構う事なく、顎を突き出し、浦原の足元にある一護には玩具にしか見えないものたちを見下ろす。何か組み立てていたのか、工具も近くにあった。
「何、これ」
ひょい、と横から手を伸ばしてロボットの頭らしいものを摘む。そこでやっと慌てたように動き出した浦原に、さらに動きを封じるよう耳に唇を押し付けて「なぁ」と囁いた。ちょっとやりすぎたかなとも思ったが、赤く染まった耳を見たら満足してしまった。
接触はほとんど無い、が、それを嫌がっているわけではないのだとわかっただけでいい。
手にした頭を床に置いて、浦原の肩に顔を埋める。体を合わせている部分が熱くなってきた。緊張してるなぁと、その反応に笑いが込上げそうになったが、そう云う自分もきっと平常より鼓動が早い。
ぎゅう、とさらに密着すれば浦原の肩が小さく震えた。
小動物みたいだな。
もう三十をとうに過ぎた男にその表現は無いかとも思ったが、顔を真赤にして体を固くしている様はあながち当たっているかもしれない。
「浦原さん」





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