なぁ、と膝に乗せた子猫が鳴いた。
あやすように喉をくすぐればごろりと甘えるように頭を寄せられ、その動作にふと、笑みが零れる。
僅かに足を動かせば、畳の擦れる音と一緒に、猫が不満そうに泣いた。体のいいソファ代わりにされてしまった事にやれやれと溜息を吐き出し、一護は春めいてきた庭先に目をやった。
花などに興味のない一護の主は、庭がどれほど荒れていようが気にはしないのだが、これだけ立派な庭があるのだからと、少しずつ手入れをしていくうちに中々立派な様相になってはいた。それを見た主に、もしかしたら何か言葉をもらえるかもしれないと思っていたのだが、主は庭に見向きもせずに部屋へと篭るばかり。まあ、わかってはいたけどなと諦めを抱いたのは今回が初めてでは、ない。
一護は、浦原という人形師によって生み出された、人形、だ。ただ飾られるだけの、布やセルロイドで作られる人形とは少しばかり違い、人の形を模倣した人工生物。人と同じ内臓を作り出し、組み合わせ、繋ぎ合わせ、外側を皮膚に似た材質で加工する。ほとんど人と変わりない身体ではあるが、自ら成長する事ができない一護のような人形は、浦原のような人形師に定期的にメンテナンスを受ける必要があった。皮膚の取替え、内臓器官の交換…。一護自身、己の体が一体どのような仕組みで動いているのか、またどのように浦原に修理をされているのかは知らない。ただ、自分は浦原という主がいなければ生きてはいけない存在なのだと、目を覚ました瞬間から浦原に教えられてきた。
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