陽射しのきつさに、手で庇を作るが、それだけで防げるわけもなく。じわりと額に浮く汗を拭いながら街外れの屋敷へと向かう。旧市街を通る道筋に、家のものが心配しないわけがないか、口だけは達者に成長した喜助にとってそれを誤魔化すのは簡単だった。それを一護に言えば、呆れたように将来が不安だと呟かれた。大きなお世話だと思いながら、一護に心配されるのは嬉しい。最近では、どうやら自分を追い返す事を諦めたのか、色々と話をしてくるようになった事も、嬉しい。しかし、未だに聞き届けられない自分の願いについては断固として拒否する姿勢は変わらずだ。
古い煉瓦造りの通りを抜け、未だ緑の多く残る区画に足を踏み入れれば、その屋敷は直ぐに目に飛び込んでくる。黒い門扉は錆び付き、閉めたら開かなくなりそうだからという理由で常に開け放たれている。防犯上、それは拙いのではと助言してみたところ、丁度その場にいた一護の仲間がそんな心配をする喜助を馬鹿にしてくれたお陰で有耶無耶になってしまった。よくよく考えれば、人間と同じような心配は彼等には必要ないのだと分かるものだが、恋は盲目とはよく言ったもので。
彼等からすればまだまだ子供と言われる年齢ではあるが、そういった感情については同年代の子供たちよりも大人だと思う。軽軽しく口にするべきではないとは思うが、言わなければ彼には伝わらないとわかってからは遠慮なく言葉にして伝えるようにしている。それでも、彼は子供の戯言と信じてはくれないのだが。
(続きは『Blood tablet』に収録)
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