いい加減、帰らなくては。
鈍い動きで起き上がり、乱れた服装を整え始めた一護を、浦原は何を言うでもなく、その翠の瞳で見下ろしている。シャツの釦をとめようと、力の入らない手で胸元を探るが、そこにあるはずの釦は無く。無理に開かれたシャツは、本来釦がある筈の場所が少し裂け、糸が解れていた。
下にTシャツを着ていて良かった。上手く働かない思考で、ぼんやりと白いシャツの下に着込んだTシャツを見詰める。傍に落ちていた鞄を取ろうと、身体を捻ると、腰に鈍痛。痛みに顔を顰めた一護を見て、浦原はやっと声を掛けてきた。何も変わらない、その声で。
「話。まだ、する気ありますか?」
確認、というよりも、一応、と取ってつけたような質問だと思った。正直、今の自分は、極端に思考能力が下がっている。話なんか聞かずに、早く家に帰って風呂に入りたかった。のろのろと、視線を合わせてきた一護を見詰めて、浦原は石膏像のように作られた顔を歪めた。それが笑みなのか、怒りなのかは今の一護には判断しかねた。
「オレ、センパイがスキなんですよ。…こういう事、シたい位」
まだ、校内には生徒が残っている筈なのに、一護と浦原の周りは静寂が支配している。カタン、と椅子と床が触れる音。視線を一護の同じ高さに合わせてきた浦原の瞳は、やはり深く。
「ねえ、センパイ」
なんで、サセテくれたの?
今にも掠れて消えてしまいそうな囁きは、静かに一護の脳内を侵食し、熱を持った痛みをほんの一瞬、忘れさせた。
「オレは狡いから、そうやって黙ってたら」
大きな手が、一護の頬を撫で、指が唇をなぞっていく。ふるりと身体に走ったものは、先程の熱と同じ。意図せずに漏れた吐息に、浦原はうっそりと、赤く染まった顔で笑む。引き込まれる。
「…センパイ、オレのモノにしちゃいますよ…?」
(続きは『内在する熱に支配され』に収録)
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